原告の塘添恵子さん。亡くなった夫・清一さんと孫の写真を見つめる=横浜市戸塚区
工事現場でアスベスト(石綿)を吸って健康被害を受けたとして、元建設労働者や遺族ら89人が国と建材メーカーに総額約29億円の損害賠償を求めた「建設アスベスト訴訟」の判決が27日、東京高裁で言い渡される。同種訴訟では七つの地裁判決が出ているが、高裁判決は初めて。亡き夫のため、裁判に加わった女性は原告を救済する判決を願っている。
原告らは建材に含まれた石綿を吸い込み、肺がんなどの健康被害を受けたと訴えたが、2012年の一審・横浜地裁は請求をすべて退けた。その後の同種訴訟で国や企業の賠償を認める判決が相次いでいる。
原告の塘添(ともぞえ)恵子さん(74)は、60歳で逝った夫清一さんの無念を晴らそうと訴訟に加わった。
清一さんは1962年に故郷の熊本から横浜に移り住み、大工として働いた。64年の東京五輪を控え、友人に「仕事が山ほどある」と誘われたためだった。清一さんは当時、「天井の吹きつけ剤をはがして、建材を張るんだ」と仕事の内容を得意げに説明していた。
だが、2000年ごろ、清一さんが突然体調を崩した。75キロの体重が1年足らずで50キロを切るまでに急減。肺がんの診断を受け、「娘たちにどう言おう」と声を絞り出した姿が忘れられない。3カ月後、酸素チューブにつながれたまま亡くなった。
恵子さんは一審判決を鮮明に覚えている。全面敗訴にショックを受け、逃げるように帰宅した。「夫は高度成長期やバブル期の日本を現場で支えた。それが裏切られた気持ちだった」と振り返る。「今度こそ、国と企業の責任を認めてほしい」(後藤遼太)
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〈アスベスト(石綿)〉 髪の毛の5千分の1ほどの細さの繊維状の鉱物。耐火性や防音性などに優れ、1970~80年代を中心に大量に輸入されて建築材料などに広く使われた。建物の建築現場や解体現場などで、労働者が吸い込むと、じん肺の一種である石綿肺や肺がん、肺を包む胸膜などにできるがん(中皮腫)などを引き起こす。国は2006年に石綿の製造・使用を原則禁止にした。