愛用する国産板「ハート」を手にする湯浅直樹
平昌(ピョンチャン)五輪シーズンのアルペンスキー・ワールドカップ(W杯)が28日、オーストリアで幕を開ける。日本のエース、湯浅直樹(34)=スポーツアルペンク=は「マスター」(修士)の学位を手に上位を目指す。
9月、中京大大学院の体育学研究科を修了した。歴史好きで、シーズンオフにスポーツ文化社会学を研究。修士論文では、国民体育大会でのスキー種目の変遷をまとめた。
北海道東海大出身。2013年に充実した練習環境と研究施設が整う中京大大学院に進んだ。入学当初は「本当になめてかかっていた」と振り返る。「研究して分かったことを発表すれば良いと思っていたが、分かったことをどう表現するのかが重要だった」
1年の半分はW杯で世界を転戦するため、研究に打ち込めるのはオフの春学期だけ。二足のわらじを続けられるか悩んだ。「これまで勉強してこなかった」と弱音をこぼしたこともある。だが、湯浅は指導を受けた來田(らいた)享子教授から「机での勉強は少ないかも知れないが、雪の上で何かを学んできたから今があるはず。勉強が苦手と言うことでスキーの価値を下げてはいけない」と励まされた。
湯浅は修士論文を作成するにあたって、自身が得意な回転が行われず、なぜ大回転だけなのかと考えた。国体創設前に行われていた戦前の明治神宮競技大会の文献にもあたり、歴史的な背景なども調査。論文をすんなりとまとめることはできなかったが、今年2度目の提出で合格となった。來田教授は「国体の競技種目に絞って変遷をたどった研究は少なく、貴重」と評価する。
引退後ではなく、トップアスリートで活動しながら修士を取る選手は珍しい。「(大学院修了は)アルペンW杯の表彰台に上がった日本選手ではいない。これからはスキーの成績が自分より良い先輩が2人いるので抜きたい」。スキーの話になれば、湯浅はいつものビッグマウスに戻る。
アルペンW杯での日本男子の表彰台は、湯浅も含めて4人いるが、成績の良い2人の先輩とは最高位の2位に入った岡部哲也と佐々木明両氏だ。W杯3位が1回だけの湯浅は「スキーの成績も学業も、日本人で一番いいものをめざしたい」と悲願のW杯優勝を目標にする。今後、博士も視野に入れるのかと聞くと、「とっても難しいが、ゼロではない」とも。
湯浅の初戦は来月12日、フィンランド・レビである回転第1戦になる。(笠井正基)