キャスターの国谷裕子さん(左)と元厚労事務次官の村木厚子さん=角野貴之撮影
「持続可能な開発目標」(SDGs)の17分野の目標のうち、目標8は「働きがいも、経済成長も」、目標5は「ジェンダー平等の実現」です。働き方をどう変えれば、働く人を取り巻く環境が良くなり、性別による不平等がなくなるのか。元厚生労働事務次官で雇用政策に携わってきた村木厚子さんに、キャスターの国谷裕子さんが聞きました。
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国谷 働き方改革の議論をどう見ていますか。
村木 議論の前段には少子高齢化の解決に向けて女性が活躍でき、子どもも産める環境が必要だということがあります。男性も女性も働き、共に家庭のことをできるようにするわけで、働き方改革へ進むのは必然的な流れでした。
国谷 残業規制のラインが国の過労死認定の基準である「月100時間」でいいのでしょうか。
村木 労働基準法による規制は、違反すれば刑事罰になるラインです。実際の残業時間は労使で決めますが、これまでは労使が一緒になって長く働くことを認めてきた。改善のためには、みながそろそろちゃんと戦わないと。
国谷 育児中の女性が短時間勤務を選ぶのは、フルタイムは残業が前提だからです。けれども昇進などの評価で不利になります。
村木 女性は育児と家事を背負って走っています。同じ100メートル走でも、女性は障害物競走なのです。労働時間を社会全体で短くしつつ、いろいろな人が様々な働き方を同じ職場ででき、それでも不利にならないフェアな評価の仕組みを作る必要があります。
国谷 正規かどうかによる所得格差の固定化が進み、社会の分断も広がっていますね。
村木 必要なのは「包摂的な成長」です。女性や若い人、ハンディを抱えた人たちにも「ディーセント・ワーク(人間の尊厳を守る労働)」を提供し、経済活動に巻き込むことができる国だけが、持続的に成長するという考え方です。
国谷 まさにSDGsの8番目の目標ですね。働きやすさの実現には5番目の目標の「ジェンダー平等」も欠かせませんが、日本は国際的な順位が低い。管理職などで一定割合を女性に割り当てるクオータ制をどう思いますか。
村木 日本のスピード感のなさを改善するにはいい制度です。ミスマッチみたいなものが起こるかもしれませんが、すぐに解消すると思います。女性が3分の1を超えると劇的に全体が変わりますから。
女性活躍推進法が施行され、女性の活躍度が低ければ、企業が解決するための計画を作って公開しなければならなくなりました。結果が求められており、これまでのような言い訳はできなくなりました。
国谷 AI時代がやってくると、事務職のような仕事がなくなるとも言われています。
村木 マイナス面もありますが、日本は世界の中でも労働力不足に悩む国。AIで労働力を補い、労働時間も短くできれば、恩恵を享受できると思います。
国谷 働くことにあまりにも精力を傾ける社会になっていて、家庭の中での時間や、自分の時間を持ちにくくなっています。
村木 日本の男性は欧米に比べて、家事や育児をする時間が短い。若い男性の意識は、かなり変わってきてはいるのですが。
社員が今の仕事に全精力を使っていると、世の中が変わって会社が変わらなくてはいけないときに、対応できなくなります。社員の自由度をあげて、自分の時間を持ってもらう方がいい。家族を通じて違う経験をすると、視野も広がります。2030年を見据えたときに、企業にとってプラスになることです。(構成・藤田さつき)
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村木厚子(むらき・あつこ) 津田塾大学客員教授。元厚生労働事務次官。若い女性を支える「若草プロジェクト」のほか、累犯障害者の支援もしている。
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政府の「働き方改革関連法案」要綱の概要
・残業時間の罰則付き上限規制を導入(極めて忙しい1カ月の上限は月100時間未満)
・専門職で年収が高い人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」を導入
・裁量労働制の対象拡大
・非正社員と正社員の不合理な待遇差の是正