「昔はあざのことばかり考えてた。でも子どもが産まれて、気にするひまがなくなった」と話す氏家志穂さん=和歌山県有田市、白木琢歩撮影
先天性の病のため顔にあざがあり、いじめや就職活動で困難にぶつかってきた女性が、同じような悩みを持つ人たちの会をつくった。そっと支えてくれる人たちの後押しを受け、活動は今年で10年を迎えた。いま、この顔に生まれ、生きてきてよかったと思う。
顔ニモマケズ、僕は生きる 内面好きと言ってくれた彼女
中学で不登校、暴走族も経験
和歌山県有田市の氏家(うじいえ)志穂さん(30)。生まれつき顔の右半分に赤っぽいあざがある。スタージ・ウェーバー症候群という難病だ。合併症で右目の視力が下がり続け、今ではほぼ見えなくなった。でも幼いころは元気で明るい少女だった。
中学校に入り、壮絶ないじめを受けたという。顔を見た同級生らが「気持ち悪い」「こわい」と避け始めた。教科書への落書きに始まった暴力はエスカレートし、とうとう校舎2階の窓から突き落とされた。
学校側の聞き取りに、突き落とした生徒たちは関与を否定。一方、内気だった氏家さんは、口ごもった。「お前の言っとることは、信用できん」。教師に疑われたことに深く傷つき、2年生の半ばから不登校になった。
中3の時、担任の紹介で不登校の若者らを支援している「麦の郷 紀の川生活支援センター」(和歌山県紀の川市)を訪ねた。「なんて冷たい目をしているんだろうと思った」。担当の藤本綾子さん(59)は振り返る。
この時は大人への不信で、心を閉ざしたままだった氏家さん。「もう生きていても仕方がない」。意を決して線路に飛び込んだが、直前で電車は急停車した。自分の存在を消したい一心で、行くあてもなく電車に飛び乗った。
気づけば京都。電車を降り、駅前をふらふら歩いていると、夜の町でたむろしていた暴走族の女性メンバーに声をかけられた。「あんた、どこからきたん?」。オートバイの後部座席に乗せてもらい、エンジン音を響かせ、風を切って走った。何もかも忘れられた。だれも顔のあざを話題にしなかった。
暴走が、許されることではない…