そぼく
「わー、かわいい!」。そんな驚きの声が近年、美術館でもよく聞かれるようになった。関連の企画展や書籍の刊行が続くためだ。海外にも広がる「kawaii(かわいい)」という感覚は、日本絵画の世界でどう表現されてきたのか。
若い女性のファッションを中心に流行した「かわいい」文化はいまや、海外にもそのまま「kawaii」という言葉で広まっている。美術界もその波に乗り、国内外を巡回した「あそぶ浮世絵 にゃんとも猫だらけ」展や、東京・山種美術館の「kawaii日本美術」展(2014年)など、見た目のかわいさを前面に出した企画展が続いた。
美術系出版社の東京美術でも14年から『かわいい琳派』など、かわいいと銘打ったシリーズ本を10冊出した。「堅苦しいと思われがちな日本美術も、かわいさを入り口にすれば気軽に楽しんでもらえる。その後押しになればと考えた」と担当者。
日本絵画への入り口はさまざまあるが、「かわいい」をテーマにした企画展の先駆けと言われるのが、13年に東京・府中市美術館であった「かわいい江戸絵画」展だ。
企画した金子信久・学芸員は日頃、江戸絵画を扱う中で現代の感覚で「かわいい!」と思う作品が多い点に着目。「企画当初は、美術関係者からかわいさを切り口にした展覧会への拒否反応のようなものも感じたが、ふたを開けてみれば、江戸の絵画展としては多い2万人以上を集客した」と話す。「かわいい」と感じる作品の中にどんな心の動きがあるのかや、「かわいい」表現の歴史や背景を探る構成は幅広い世代から好評を得た。
従来の展覧会では一緒に紹介される機会の少なかった、伊藤若冲(じゃくちゅう)や仙厓義梵(せんがいぎぼん)ら江戸期の絵師たちを並べて鑑賞する機会も増えた。美の豊かな楽しみ方を育むきっかけにもなっている。
円山(まるやま)応挙が描く子…