力投する明徳義塾先発の市川=加藤諒撮影
(30日、選抜高校野球 日本航空石川3―1明徳義塾)
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「ボール球から入ろうとしとったんか?」。試合後、明徳義塾の馬淵監督が、隣で取材を受けていたエース市川に聞いた。
「はい」と市川。
「それが抜けて真ん中にいった。やっぱり、体が開いとったんやろな」。馬淵監督は、納得したように言った。
2人が振り返ったのは、日本航空石川の原田にサヨナラ3ランを打たれた場面だ。九回無死一、二塁。市川が外角のボールコースをめがけて投げた129キロのスライダーは、真ん中に入った。「投げた瞬間、やばいと思った」。打球は無情にも左翼席に吸い込まれた。
「市川は絶好調。明徳に入ってから、今が一番いいんじゃないか」。25日の初戦の前、馬淵監督は大いに手応えを感じていた。
昨秋の明治神宮大会を制した、今大会ナンバー1右腕。秋からの公式戦は、すべて1人で投げきってきた。初戦の中央学院(千葉)戦では最速145キロの直球を投じた。5点を失ったが、「調子は良い」と感じていた。
だが、この日はブルペンから何かがおかしい。直球は走らないし、得意のスライダーも「曲がりが悪い」。抜群のマウンド度胸と豊富な経験値で八回まで「0」を並べたが「納得はいっていなかった」。
その不安が九回に出た。直前の攻撃が1死満塁からの併殺打で無得点に終わったこともあり、「嫌な感じがした」。
先頭への初球は142キロが真ん中に。積極的に振ってくる打線を相手に、普段はしないような不用意な入り方だった。右前安打。次打者には制球が定まらず、四球。タイムを取り、捕手の安田と「ボール球から入ろう」と確認した直後、原田への初球がど真ん中にいってしまった。
なぜ、スライダーが曲がらなかったのか。「自分でもわかりません」。疲れは感じていなかった。投球フォームにも、自分では違和感がなかった。
本調子でなくても、強打の日本航空石川を八回まで抑えられたのは、市川だからこそ。あとアウト三つ。甲子園で1試合を投げきる難しさ。「27個のアウトを取り切ること。終盤にいい投球ができるようにしたい。夏も来ます」。春の痛恨を無駄にはしない。(山口史朗)