床にもびっしり写真を張る。「股関節をやられて大変」と笑う小松浩子さん=名古屋市中区
ざっと幅1メートル、長さは合わせて100メートル。写真がプリントされた膨大な量のロール紙が天井から垂れ下がり、壁を埋め尽くす。ギャラリーに展示しきれず、残りはぐるぐる巻きにして置かれている。床には六つ切り(縦約20センチ、横約25センチ)の写真が並べて張られ、来場者は作品を踏みながら鑑賞することになる。
「写真界の芥川賞」と言われる木村伊兵衛賞の受賞が3月に決まった小松浩子さん(48)。決定後初の個展「限界非効用」が名古屋市中区大須1丁目の「MUNO」で開かれている。受賞決定に際し写真集ではなくインスタレーションが評価され話題を呼んだ。その作品を味わえる。
撮るのは、工場の資材置き場。無造作に積まれたパイプ、ドラム缶……。「製品や建築物の中身であり、日本社会の縮図が見える」と小松さんは自作について語る。
素人目には資材が廃棄されたものか、これから生産に使われるものかは判然としない。「写真は動いている時間を止めてしまう」。これから使われるものが写っていても、廃虚が写っていると思われることがあるという。
個展の会場は天井も床も「内部」のイメージ。「天井にも床にも写真があることで方向や時間を見失う。見る人に『中』に入ってもらいたい。体の大きさや視力によっても見られるものが違う。そこがおもしろい」と小松さんは話す。
個展はギャラリー2カ所で開催。すぐ近くの「RAINROOTS」(中区松原1丁目)では、壁から床まで六つ切り写真を印画紙のまま隙間なく並べる。撮った順番にならないよう無作為に張っている。隙間なく配置することでいや応なく周りの写真も目に入る。少しだけアングルを変えて撮った似たような写真も見つかる。「あっ、さっき似たような写真を見た、でもちょっと違うってなりますよね」。見ていくうちに時間も場所も攪乱(かくらん)され、あいまいになる。それが狙いだという。
5月6日まで。ともに水曜休み。無料。問い合わせはRAINROOTS(080・8110・9462)。(千葉恵理子)