記者の質問に答えるテレビ朝日の角南源五社長(右)と篠塚浩報道局長(中央)=2018年4月24日、東京都港区、池永牧子撮影
財務省の福田淳一事務次官からテレビ朝日の女性社員がセクハラを受けたと訴えている問題で、同社の角南(すなみ)源五社長は24日の定例会見で、社員が次官との会話の録音を外部に提供したことは「公益目的からセクハラ被害を訴えたもので、理解できる」と述べた。
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同社はこれまで「取材活動で得た情報を第三者に渡したことは報道機関として不適切な行為で遺憾」としていた。角南社長はこの日、録音は「身を守るためのものであって、不適切だったとは考えていません」と発言。録音には、取材内容と次官によるセクハラ発言が混在したため、結果的に取材内容が外部に渡ったとし、これについては引き続き「遺憾」とした。
会見では、セクハラがあったとされる4月4日に次官と社員が会った経緯が明らかにされた。社員は1年半ほど前、福田氏と取材目的で複数回会ったが、そのたびにセクハラ行為があったため、上司と相談し、2人で夜に会うのを1年ほど避けていた。だが、この日は森友学園問題の報道で他局に先行され、裏付け取材を命じられた直後に、福田氏から連絡があった。そのため、別の上司に福田氏と会うことを伝えた上で取材に行ったという。
この際に社員は福田氏のセクハラ発言を録音し、「この事実を報道すべきだ」と訴えたが、以前セクハラについて相談した上司は二次被害の恐れを理由に「難しい」と答えた。会見で篠塚浩取締役報道局長は「上司は『今のメディア状況の中で、自分の経験からしても現実的に放送は難しい』と社員に説明したそうです」と述べた。
すると、「メディア状況」とは何なのか、報道陣から質問が集中した。篠塚局長は、森友・加計学園問題が大きく報道される中、「このタイミングで出す(放送する)ことは、なんらかの我々の意図があると思われかねない。そういう意味合いがあったと見ている」と語った。
上司が社員の訴えをもみ消したかのような一部報道があるとして篠塚局長は「事実ではございません」と否定。「情報共有がスムーズにできなかった体制となっている一番の責任は、組織の長である私にあり、すみやかに改善を図りたい」とした。
角南社長は、政治家から女性社員を非難する声が上がっていることについては「こちらから申し上げることはない」と述べるにとどめた。
23日発売の週刊現代が、テレ朝がセクハラを公表した19日未明の会見について「官邸と打ち合わせ後に会見」などと報じたことは、「全くの事実無根」(篠塚局長)と説明。23日付で週刊現代に抗議したことを明らかにした。(湊彬子、真野啓太)
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林香里・東大院教授(ジャーナリズム研究)の話 「2人で会ったのが悪い」「記者を男に代えればいい」などの声が上がり、セクハラが別の問題にすり替えられている。男性の取材相手に避けられるなどして、女性記者が働きにくくなることを危惧している。メディアは萎縮せず、報道の現場におけるセクハラについて一致団結して議論を深めるべきだ。