今年の超歌舞伎のポスター。キャッチコピー「それは、愛に似た恩返し」に、獅童さんはファンへの感謝の思いをこめたという
歌舞伎俳優・中村獅童とバーチャルシンガー初音ミク、伝統芸能・歌舞伎の魅力と、最先端デジタルテクノロジーの威力が真っ向から切り結ぶ「超歌舞伎」が、28、29日の2日間、千葉・幕張メッセで上演される。開催は今年で3年目。上演に先立つ22日に、東京・銀座の歌舞伎座ギャラリーで、プレイベントのトークショー「木挽(こびき)『超』トーク」が開かれた。出演した獅童さんは「古典を守りつつ、新しいものに挑戦していく、それこそが自分の歌舞伎のありかた」と意欲を語った。
「病に打ち勝つ力に」
昨年5月、獅童さんは肺がんにかかっていることを公表した。4月末に上演された2年目の超歌舞伎では「これが最後の舞台になるかもしれない」という思いがあったと話す。千秋楽、舞台の上から「この光景を瞳に焼き付けておきたい」と客席に語ったのは、その心情からだったという。3月に東京・六本木のニコファーレで行われた製作発表会見でも、同じ思いを繰り返し語っていた。
病床の獅童さんの支えになった一つが、ファンから贈られたメッセージカードだ。初年の演目「今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)」にちなみ、桜の花と木をあしらったカードに、ファンたちが見舞いのメッセージを書き込み、獅童さんのもとに贈った。入院中、獅童さんはそれを病室に飾っていた。「あれが、病に打ち勝つ力になりました」という。
歌舞伎座ギャラリー会場には、そのメッセージを書き、贈った若いファンたちもいた。メッセージは、過去の超歌舞伎をきっかけに知り合った初音ミクファンと歌舞伎ファンが開いた「オフ会」でまとめたものだ。書いた一人、20代の歌舞伎ファンA子さんは「あのカードが少しでも力になったことを、同じ空間で直接うかがえた。それだけでうれしい」と話す。この日の予定の見通しがなかなか立たず、前日にチケットを購入して入場した。もう一人、オフ会を主催した20代の初音ミクファン、ハンドル名キヨさんも会場にいて、「あれほど感謝していただけるとは」とはにかむ。
「オフ会」はもともとネット用語。「オンライン(ネットに接続)」と「オフライン(ネットに非接続)」という状態をさす言葉から生まれたもので、「ネットから離れてリアルで会うこと」を示すのが「オフ会」だ。
■オフ会の10日前に病…