サッカー日本代表戦を楽しむ岩田朋之さん(左)。ピッチ上の選手の動きは見えないが、友人や兄弟らの助けを借りながら、スタジアムでの観戦を楽しんでいる(本人提供)
目が見えなくても、スポーツ観戦したい――。競技場の臨場感は視覚障害者にとっても特別だ。人混みでも移動できるよう手助けをするボランティア団体もある。ただ、その人件費を支給する国の制度利用をめぐっては地域差があるとされ、課題もありそうだ。
「ホームランはね、キーンと高い音が響くんだよ」。視覚障害がある広島県福山市の種本茂昭さん(55)は「生粋のカープファン」で、毎年、広島市のマツダスタジアムに野球観戦に出かける。球場では捕手のミットにボールが収まる「バスッ」という音がはっきり聞こえるという。応援歌が聞こえれば一緒に声を張り上げる。「観戦が一番の楽しみ。無理をしてでも行きたい」と話す。
公式戦にスタッフ常駐
広島カープは2009年のマツダスタジアム運用開始とともに障害者や高齢者らをサポートする「ホスピタリティスタッフ」を置く。公式戦に常駐し、手伝いが必要な人がいないか目を配って声かけをする。あらかじめ連絡(入場券部=082・554・1010)をすれば移動の付き添いを頼める。
福山市の支援施設はこのスタッフの協力を得て視覚障害者の観戦会を毎年企画。種本さんも普段はラジオで試合を聞いているが、この観戦会に毎年参加している。
視覚障害者にとって、スタジアムなど広い競技場では移動が難しい。
ブラインドサッカー日本代表加藤健人さん(32)と、弱視のロービジョンフットサル日本代表岩田朋之さん(32)は、Jリーグや日本代表戦などのサッカー観戦が趣味。2人とも病気が原因で視力が低下してからは足が遠のいていた。スポーツマンの2人にとっても、競技場ではトイレなどで席を離れると方向がわからなくなるだけでなく、人混みや段差が危険で1人で戻るのは困難だ。
今は付き添う友人に誘われて、再び観戦するようになった。「もう楽しめないと思っていたけど、やっぱりスタジアムの空気感はいい。試合前のドキドキ感、サポーターの声援は格別」。岩田さんは「僕らは一緒に観戦してくれる友人がいるが、そうでない人にはハードルは高いと思う」と言う。
各地の支援団体と連係
そうした人を支援するためボランティア団体「全国視覚障害者外出支援連絡会」(JBOS)では、趣味で遠出したい視覚障害者と各地の支援団体をつなぐ。目的地までの案内や入場を頼める。1996年の設立当初は9団体だったが、現在は36団体が加盟。阪神甲子園球場が近い大阪の支援団体「クローバー」には高校野球やプロ野球の観戦希望者から毎年依頼が寄せられる。
JBOS事務局長の海士(かいし)美雪さん(70)は「移動の手助けがあれば、もっと趣味の幅を広げられる。『こんなことで』と遠慮せず、活用して欲しい」と呼びかける。問い合わせはメール(office@jbos.jp)で。ボランティアも募集している。
厚生労働省によると、視覚障害者の外出を助ける取り組みをめぐっては、2011年に施行された国の障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)に基づく同行援護事業があり、付き添い者の人件費を国などが支給している。ただ、娯楽での利用について、国は「社会通念上不適切な目的」は認めない方針を示しているだけで、事実上の判断は自治体に委ねている。
スタジアムなどでの手助けも、障害者への差別防止の観点から施設側が担うことを基本とし、配慮のない施設内で制度の利用ができないケースも懸念される。
同省や日本盲人会連合の同行援護事業所等連絡会によると、支給決定については余暇活動の内容によって判断にばらつきがあり、一部の地域では申請者が「趣味での外出」をためらうケースもあるという。(高岡佐也子)