スポーツジャーナリストの中西哲生さん
今月4日、2020年東京パラリンピックを目指すブラインドサッカー日本代表の練習に、臨時コーチとして初めて参加しました。高田敏志監督、中野崇フィジカルコーチとは縁があり、1日だけですがコーチを務めさせていただいたのです。
高田監督は、20年のメダル獲得という目標から逆算して強化をしています。ブラジル、アルゼンチン、中国の3強の牙城(がじょう)を崩すべく、これまでブラインドサッカー界でやったことがないことを取り入れていくなど、新しいことに取り組んでいます。
ブラサカ日本代表の臨時コーチに
そんな中、大きな課題を抱えているのがシュートの場面です。そこで、プロ選手たちに伝えているキックの理論を、ブラインドサッカーの選手たちに伝えてほしい、ということで今回呼んで頂きました。
指導のポイントは、映像や手本をみせる手法が使えない選手たちに、どう論理的に伝えるか、でした。実際、午前の練習ではその難しさをかなり感じました。ただ、そこで役に立ったのは、ここ15年ほど、サッカーにおいてありとあらゆることの「言語化」をテーマとしてきたことです。例えば、キックについて、どうしてこういう動作が必要なのか、どういう効果があるのか。これまでのパーソナルトレーニングの中でも、一つ一つの動作を丁寧に選手に説明してきたからこそ、今回、ブラインドサッカーの選手たちにも、なんとか蹴り方の論理を伝えられました。
具体的にはシュートの時、「蹴り足から着地すること」の重要性を伝えました。左足でシュートするなら、左足から着地し、右足でシュートするなら右足で着地する。その方が、ボールに力が伝わる可能性が高いうえ、GKにシュートコースを読まれにくいのです。実際、世界のトップクラスの選手が放ったシュートで、決まったゴールは、そういった形が多いのです。
なぜそういったシュートが決まりやすいのかを、具体的に選手たちに説明しました。日本人はボールを蹴る時、軸足を地面につけたまま蹴ることが多いのですが、実は軸足が地面に立ったままだと、軸足がどの方向に向いているかで、蹴り足の軌道の範囲と、ボールがどこに飛んでくるかが、ある程度GKが予測できるのです。それが蹴る瞬間、軸足を地面から離すことによって、蹴り足がどう振られるかがわかりづらく、GKはインパクトの瞬間までシュートコースを予測しづらくなります。つまり「蹴り足から着地」というのは、軸足を地面から離して蹴る動作を導くための意識で、インパクトの瞬間には両足が地面から離れていることが重要なのです。
これは、横から来るボールに対して両足を地面から離して蹴るボレーや空中のヘディングが、軸足がないことで事前の動作によるコース読みがしにくく、相手GKがインパクトの瞬間まで動きづらい感覚と、近いものがあります。それがボレーシュートやヘディングシュートが決まりやすい理由でもあります。つまり伝えたかったのは、「地面にボールがありながらボレーシュートと同じ動きをしてほしい」ということです。
言語化への深い取り組み
そう伝えると、選手たちの動きは一気に変わりました。健常者のサッカーであれば、映像を見せて習得できるかもしれませんが、ブラインドサッカーでイメージがわきにくい中、決まる確率の高い蹴り方だと認識したことで、取り組みへの意欲が高まったのです。午後の練習ではGKが予測しづらい「蹴り足着地」のシュートが早速、決まるようになりました。
技術を習得するための「目的」と「意味」を理論で伝えることで、取り組みを促せ、プレーの再現性が高まる。見えないこと、できないことを言い訳にせず、見えない中でできる方法を、常に探して取り組んでいるブラインドサッカーの選手たち。彼らに触れて、言語化へのより深い取り組みを再認識しました。