米朝不信の連鎖
咸鏡北道豊渓里(ハムギョンブクトプンゲリ)の核実験場の爆破は、訪朝した米英中韓ロのテレビ・通信社の記者30人からなる国際記者団が見守るなかで行われた。
到着が1日遅れた韓国メディアを除き、一行は22日に北京から北朝鮮東部の元山(ウォンサン)に入った。英スカイニュースの記者によると、記者らは元山の空港で衛星電話と放射線を測定する線量計を取り上げられた。抗議したところ、「核実験場は完全に安全で、線量計は必要ない」と言われたという。
AP通信や韓国記者団などによると、一行を乗せた特別列車は23日午後7時ごろに元山を出発。約400キロ離れた載徳(チェドク)駅に向かった。線路の状況が悪く、約12時間かかると説明されたという。
特別列車はディーゼル機関車が寝台車と食堂車の2両を引っ張る編成。食堂車では欧米の記者向けとアジアの記者向けに別々のメニューが用意され、七面鳥や羊肉の料理のほか、キムチも準備されたという。1食の費用は20ドル。寝台車は二つの寝台がある個室式で、レモネードなどの飲み物もあった。ただ、すべての窓はカーテンで覆われ、記者たちは車窓を眺めるのを禁じられたという。
韓国外交省の報道官は24日、核実験場の閉鎖について「非核化に関する最初の措置であり、完全な非核化に向けた契機になるよう期待する」と述べた。(ソウル=武田肇)
トランプ氏は、北朝鮮が2度目の中朝首脳会談後に米朝首脳会談の再考を表明して以降、正恩氏が本気で非核化に取り組む気があるのか、不信感を強めていた。元米国務省高官は「北朝鮮が物理的に施設を破壊したとしても、これまでの核開発のデータを温存しているはずだ」と語る。
核実験場の爆破に同行した米CNNテレビの記者は、坑道から約500メートル離れた展望デッキから爆破を目撃した。しかし、それらの施設が今後使えなくなったのかは分からないとし、「専門家による検証が必要だ」とリポートした。
トランプ米政権は、北朝鮮が豊渓里の核実験場を爆破したことを、非核化への一歩として一定の評価はする考えを示してきた。トランプ米大統領は今月12日、北朝鮮が核実験場を廃棄するとの発表を受け、自身のツイッターに「北朝鮮が6月12日の(米朝)『大』首脳会談前の今月、核実験場を廃棄するという発表をした。ありがとう、とても賢く丁寧な姿勢だ!」と投稿。北朝鮮側の対応を歓迎していた。
トランプ政権は「検証可能」な非核化を実現するために、国際原子力機関(IAEA)などによる査察受け入れを北朝鮮に対して引き続き強く求めていく方針だ。
だが北朝鮮側が繰り返し米朝会談の取りやめを示唆して挑発する中、トランプ氏は23日、「いつかは確実に会談は開かれる。6月12日にうまく開かれるかもしれない。来週、どうなるか分かる」と語った。
24日放送のインタビューでは「段階的な非核化」について、柔軟な姿勢を示した。だが、米朝首脳会談の開催については明言を避け、同日に会談の開催中止を発表した。
CNNは23日、トランプ政権は、ポンペオ国務長官ら政府高官が、北朝鮮とのハイレベル実務協議を模索していると報じた。トランプ氏は、正恩氏の非核化に対する真意を確認したうえで、首脳会談を予定通り開くか判断するとみられていた。また米側は、北朝鮮に対し、すべての核・ミサイル関連施設に米専門家の派遣を受け入れさせるなど、具体的な約束を取り付けることで非核化への本気度を測るとみられていた。
ポンペオ氏は22日の記者会見で「会談の成功を確実にするため必要なことをやる。北朝鮮と第三国で会うなど何らかのことを準備している」と発言。「大統領は会談を、歴史的で成功した結果を確実に得る機会にするため、出来ることすべてをやるよう、我々に指示を出した」とも語った。
米ワシントン・ポスト紙(電子版)によると、北朝鮮が批判していた米韓軍事演習「マックスサンダー」が終わる25日以降、ホワイトハウスのチームがシンガポールを訪問。北朝鮮当局者と接触し、首脳会談の議題や運営方法について協議する可能性が報じられていた。(ワシントン=土佐茂生、園田耕司)