来年3月末の欧州連合(EU)離脱をめぐり、英国が完全離脱を事実上1年先送りする案を提案した。だがEUのバルニエ首席交渉官は8日、「解決策というより、疑問を生じさせるもの」と述べ、受け入れられないとの考えを示した。最大の問題となっているのは、英領北アイルランドと地続きのEU加盟国アイルランドとの国境管理だ。
歴史的に関係が深い両地域の間に亀裂を生じさせないため、離脱後も厳しい国境管理をしないことで英・EUは一致している。だが、その方法を巡っては両者に大きな溝がある。
EUの「関税同盟」に北アイルランドをとどめる案を示すEU側に対し、英側は「国内に事実上の国境を作るもの」と反発する。ただ他の解決策を示せず、7日、問題を解決できない場合の暫定的な措置として、2020年12月の完全離脱の時期を1年延ばし、その間、英全体が関税同盟にとどまる「一時的な関税協定」を提案した。
EU側は関税同盟にとどまるなら、EUの予算や法律にも従う必要があるとの立場で、今回の提案を「いいとこ取り」と受け止めているとみられる。
両者は英国が19年3月末にいったん離脱した上で、20年12月まで経済環境の激変を避けるための「移行期間」を設けることで合意している。ただEU側は、今年10月までに北アイルランド問題を解決できなければ移行期間を含めた離脱協定の締結は19年3月の離脱に間に合わないとしている。3月のEU首脳会議までにこの問題を解決する予定だったが、先行きは依然として見通せていない。
離脱交渉は大幅に遅れており、貿易のルールなど将来の関係についての話し合いは進んでいない。(ブリュッセル=津阪直樹、ロンドン=下司佳代子)