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「地裁決定は慎重さを欠く」 袴田さん再審取り消し要旨

作者:佚名  来源:asahi.com   更新:2018-6-12 6:19:53  点击:  切换到繁體中文

 

1966年の静岡県一家4人殺害事件で、死刑が確定した袴田巌さんの再審請求を棄却した11日の東京高裁決定の理由の要旨は次の通り。


高裁「DNA型鑑定、信用できぬ」 袴田さん釈放は維持


これまでの経緯


袴田さんを死刑とした確定判決は、事件から約1年2カ月後、袴田さんの勤務先のみそ工場のタンク内で見つかった5点の衣類を犯行時に着用していたと認定した。2014年3月の静岡地裁決定は、5点の衣類のうち、シャツにあった血痕から袴田さんとは別人のDNA型を検出したとする本田克也・筑波大教授の鑑定が信頼できるなどとして、再審開始を認めた。


本田鑑定について


高裁としては、本田氏の「細胞選択的抽出法」という鑑定手法には科学的原理や有用性に深刻な疑問があり、地裁決定を是認できない。本田鑑定は確定判決に合理的な疑いを生じさせるような新証拠とも認められない。


まず、本田鑑定の手法は本田氏以外に成功した例が報告されておらず、一般的に確立した科学的手法と認められない。科学の進展に伴い、事案によっては確立していない段階で利用される事態もあり得る。だが、一般的に許容された検査法を用いるべきだとする日本DNA多型学会の指針を踏まえれば、その正当性や結果の再現性の保証などの観点から、慎重な吟味が必要不可欠だ。


そして、本田鑑定は基礎となる科学的原理の信頼性が十分でなく、複数の専門家から疑問が上がっていたのに、地裁決定は本田氏が提出した報告書や鑑定のチャート図を根拠として、証拠価値を高く評価しており、慎重さを欠いている。


本田氏は試薬「レクチン」を使って血球細胞を凝集させ、遠心分離で比重の重い血球細胞を沈殿させ、それ以外の細胞を分離するとしている。だが、レクチンはDNA型鑑定に必要な白血球だけを凝集させるものではなく、遠心分離で白血球と他の細胞を分離できたとの研究報告は見当たらない。この手法は研究途上の段階で、信頼性は著しく低い。


また、地裁決定は本田鑑定が信用できる根拠として、5点の衣類は汚染された可能性が低いことを挙げている。だが、衣類はDNA型鑑定の手法が広く捜査で実施される前に発見、押収されており、汚染への配慮をしないまま、多数の関係者が直接接触した機会が多い。本田鑑定は手作業もあり、汚染の機会が大きくなることは否定できない。


鑑定のチャート図も、本来はカラーで表示されるものなのに、白黒で印字されたコピーで提出され、不鮮明な部分もある。チャート図の信用性を判断するために必要な元データや実験ノートについて、本田氏はすべて消去し、保存していないと証言している。あまりにも不自然で、記録の廃棄は同学会の指針にも適合しない疑いがある。チャート図のみで本田鑑定の結論を支持するのは困難だ。


本田鑑定の検証をめぐり、ほかの鑑定人の推薦などについて弁護人の協力も得られず、本田鑑定の信用性に関する審理を高裁で行うことも、地裁に差し戻して行うことも不可能だ。


弁護人は再現実験の結果、血液由来のDNA型が検出されたと主張するが、再現実験では本田鑑定とは異なる手法が採られており、本田鑑定の有効性を証明したとは評価できない。


以上、地裁決定は本田鑑定の評価を誤った違法がある。


みそ漬け再現実験報告書について


確定判決は、タンク内に漬かっていた5点の衣類が犯行時の着衣だと認定した。これに対し、地裁決定は、弁護団の再現実験を踏まえて「1年以上タンク内に漬かっていたにしては色が薄くて不自然だ」と判断して捏造(ねつぞう)の可能性を指摘したが、不合理な判断だ。


実験によると、みそは1年以上たつと熟成が進み、茶色を通り越して黒に近い色になるはずで、新しいみそを仕込んでも混じり合うことはないという。しかし専門家によれば、残存みそと仕込みみその量に差がある場合、色の濃いみそは大量の仕込みみそにのみ込まれて次第に色が淡くなる。


比較に使われた当時の衣類の写真も劣化などの問題があり、色を正確に比べる資料になり得ない。実験報告書はタンク内のみその色を正確に再現しておらず、無罪を言い渡すべき明らかな証拠とはいえない。


5点の衣類の検討


5点の衣類のうち、鉄紺色ズボンの寸法札に書かれた「B」表示は色を意味するもので、これを(肥満体用の)「B体」サイズとした確定判決は誤りで、実際は「Y体4号」(ウエスト76センチ)だった。しかしそれを前提としても、袴田さんは当時このズボンをはけたと認められる。


ズボンのウエストは約3センチ詰めた形跡があり、誤差を含めると約72~74センチだった。一方、袴田さんが当時使っていた皮製バンドで多く使われた穴の位置からするとバンドの周径は72・6~73・05センチで、ズボンは袴田さんのものだという確定判決に合理的な疑いが生じるとはいえない。


その他の衣類に関する新証拠も確定判決の認定を左右するものとは言えない。


供述に関する新証拠


弁護人が高裁に提出した取り調べ録音テープによると、取り調べは深夜まで連続して続き、否認しているのに繰り返し遺族への謝罪の気持ちを聞き、心理的に追い込み疲れさせていく手法が使われている。取調室に便器を持ち込ませて排尿させたこともうかがわれ、任意性・信用性に疑問があると言わざるを得ない。


しかし確定判決は、警察官調書を証拠から排除しており、検察官調書も1通採用しただけで、実質的には犯人性を推認する証拠にしていない。取り調べ状況に関する新証拠を出されても、原則として、犯人性の認定に合理的な疑いを生じさせる証拠にならない。


5点の衣類の捏造の可能性について


袴田さんの衣類は、1966年9月下旬には下宿先から実家に送り返されているため、捜査機関がこれを手に入れて工作することは想定しがたい。捏造するにしてもみそ工場に行ってタンクに埋める必要などがあるが、みそ工場の協力なしで隠すのは極めて難しい。


捜査機関は取り調べで「犯行時の着衣はパジャマ」との自白を得て、それが公判活動の立証の柱になっていた。これに矛盾する衣類をわざわざ捏造する動機も見いだしがたい。


結論


5点の衣類に関する新旧証拠やその他の証拠を総合評価しても、捜査機関が衣類を捏造したことを示す明らかな証拠はうかがわれず、5点の衣類を根拠として袴田さんを犯人とした確定判決の認定に合理的な疑いは生じていない。


刑の執行停止


高裁としては再審を開始する理由はないと判断しており、身柄の解放を継続する必要性は弱まるとはいえる。だが、必ず刑の執行停止の裁判を取り消すべきとまではいえない。事案の重大性や有罪判決を受けた者の生活状況、心身の状況などを踏まえた身柄の拘束の必要性、上訴の見込みなどを踏まえた抗告裁判所の合理的な裁量権に委ねられている(もっとも高裁決定が確定した場合、再審開始決定は効力を失うので、開始決定を前提とする執行停止の決定は当然失効し、死刑の確定判決を受けた袴田さんを再び拘置できることになる)。


そこで、本件を検討すると、袴田さんに死刑が言い渡されていることを踏まえても、現在の年齢や生活状況、健康状態などに照らすと、再審開始決定を取り消したことによる逃走の恐れが高まるなどとして、執行が困難になる危険性は乏しく、高裁決定が確定する前に執行停止を取り消すのが相当とまでは言い難い。従って、高裁は職権を発動して、死刑と拘置の執行停止を取り消すことはしない。



 

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