作詞当時の加賀大介さん(加賀道子さん提供)
全国高校野球選手権が第100回の記念大会を迎える今年、大会歌「栄冠は君に輝く」をテーマにしたドキュメンタリー映画が制作される。作詞した石川県能美(のみ)市の故・加賀大介さんと家族の物語が描かれる。撮影に協力した妻の道子さん(93)は、野球少年だった夫の思いが詰まった歌をこの夏、甲子園で聞くつもりだ。
大会歌の歌詞は1948年6月20日、朝日新聞が公募した。5252編の中から石川県根上町(ねあがりまち、現・能美市)の加賀道子さんの詞が選ばれ、翌7月20日に発表された。曲は昭和初期から数々のヒット曲を手がけた古関裕而(ゆうじ、1909~89)がつけた。道子さんは金沢市内の職場で歌詞の当選の連絡を受け、朝日新聞金沢支局を訪れて当時は大金だった5万円の賞金を受け取った。
だが、本当は婚約者だった大介さんが、道子さんの名で応募したものだった。「賞金目当てと思われるのはプライドが許さなかったようです」と道子さん。20年後の68年2月、朝日新聞の取材に「作詞者は夫でした」と告白するまで、取材なども道子さんが受けていた。
こうした経緯や歌詞に込められた思いなどを東京の映画監督稲塚秀孝さん(67)が、映画「ああ栄冠は君に輝く」にまとめる。稲塚さんは被爆者や難病患者を追いかける作品などドキュメンタリーを手がけてきた。2008年の90回大会の際に道子さんを取材したことがあり、「100回大会で絶対に映画を作りましょう」と約束し、脚本を温めていたという。
能美市や金沢市でロケをし、カラオケで大会歌を歌う道子さんの姿も撮影した。映画の中では、歌手の加藤登紀子さんも歌う予定で、語りは俳優の仲代達矢さんが務める。仲代さんが主宰する無名塾の役者らが出演するドラマ部分と、道子さんや能美市出身の元ヤンキースの松井秀喜さんらのインタビュー部分をあわせ、作品は90分。7月7日に金沢コロナシネマワールド(金沢)で先行上映し、同下旬から全国で公開する予定。
稲塚監督はこの映画のテーマを「男の夢と挫折、そして家族の物語」と話す。大介さんは野球少年だった16歳の時、試合中に右足のつま先をけがして骨髄炎となり、ひざ下を切断。松葉杖生活になっていた。作詞当時は短歌会や劇団を主宰しつつ、小説執筆にいそしんでいた。家族に支えられ、自宅にこもって創作に打ち込む傍ら、ラジオでは欠かさず野球中継を聴いていたという。大介さんは実際に甲子園を訪れることなく、73年6月、58歳で病気で亡くなった。
生前、高校野球の中継で大会歌を聴くと、「自分ながらいい歌だな」と喜んでいたという。道子さんは3番の歌詞が特に好きだ。野球にうちこむ命の輝き。大介さんの思いを感じる。「今でも新しい。本当にすてきです。夫にはたくさん叱られたけど、素晴らしい歌を残してくれた」
道子さんは50回大会以降、10年ごとの記念大会は開会式を観戦しており、今夏、子や孫ら一家総出で甲子園を訪れる予定だ。「こんなに長生きして100回大会を迎えられるとは。甲子園で『栄冠は君に輝く』を聴くことは、私の生きがいみたいなものです」
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「栄冠は君に輝く」
作詞・加賀大介 作曲・古関裕而
雲はわき 光あふれて
天たかく
純白のたま きょうぞ飛ぶ
若人よ いざ
まなじりは 歓呼にこたえ
いさぎよし ほほえむ希望
ああ 栄冠は 君に輝く
風をうち 大地をけりて
悔ゆるなき
白熱の 力ぞ技ぞ
若人よ いざ
一球に 一打にかけて
青春の 賛歌をつづれ
ああ 栄冠は 君に輝く
空をきる たまのいのちに
かようもの
美しく におえる健康
若人よ いざ
みどり濃き しゅろの葉かざす
感激を まぶたにえがけ
ああ 栄冠は 君に輝く
■遺稿入れたタイムカプセル…