バリューブックスの倉庫に立つ中村大樹社長。寄付に充ててほしいと、全国から毎日数万冊の古本が届く=長野県上田市
NPOへの寄付を橋渡しし、業績を急速に伸ばしている企業がある。古書をネット販売するバリューブックス(長野県上田市)。古本の買い取りとNPO支援を組み合わせたところ、寄せられる本が急増した。本を手放したい人と資金を集めたいNPOをつなぎ、自社も得をする「三方よし」の戦略を探った。
バリュー社が手がける「チャリボン」(
http://www.charibon.jp
)。2011年に始めた。「チャリティー」と「本」を合わせた造語だ。
バリュー社は12年11月、日本で暮らす難民の支援に取り組む認定NPO法人「難民支援協会」と、チャリボンでつながった。
利用者が本を買い取ってもらう場合、通常は買い取り額が利用者の口座に振り込まれる。チャリボンでは、あらかじめ用意されたNPOなどのリストの中から応援したい団体を選ぶと、買い取り相当額が団体に振り込まれる。バリュー社の中村大樹社長(35)は「お客さん、NPO、うちの会社の三方よしの仕組みです」と話す。
利用者にとっての利点は、本棚の片付けがはかどることだ。「誰かのために役立つ」と思えれば、手放しやすい。
一方、NPOは活動資金を手にできる。買い取り価格が1冊50円の場合、60冊集まれば難民に一泊の宿を提供できる。100冊なら専門スタッフが空港などで相談にのることが可能――難民支援協会はこうPRする。寄付者全員に礼状と活動報告書を送付。広報担当の野津美由紀さん(29)は「継続した支援にもつながっている」という。
チャリボンでは、難民支援協会を指定する延べ4千人以上から計40万冊近くが届き、1千万円以上の寄付を仲立ちした。
バリュー社は、取り扱う書籍が増えれば、古書のネット販売で売り上げ増につながる。資金を集めたいNPOがチャリボンをPRすれば、年間2億円の広告費も抑制できる。
思わぬ発見もあった。NPOとのつきあいが深まると、これまで縁が薄かった人から価値の高い専門書が届き始めた。中村さんは「仕入れの強化が古書店の生命線。本業の強化につながる」という。「うちのような小さな企業でも、社会貢献を無理せず続けられる」と自信を深めた。
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中村さんが仲間たちとバリューブックスを創業したのは07年。一時は、やりがいを実感できず、辞めていくアルバイトが後を絶たなかった。「社会に役立っていることを、少しでも実感してもらおう」。中村さんらは、状態がよくても売れない本を学童保育所や高齢者施設へ寄贈。その一方で、資金難に悩むNPOが多いと聞き、工夫を重ねてチャリボンを立ち上げた。
チャリボンのサービスを11年に開始して以来、同社に届いた書籍は5千万冊を超える。うち約3割はチャリボン経由で、寄付額は計4億円近い。同社の売上高は平均40%程度の増収が続いている。
ただ、課題もある。チャリボンでは、買い取りができずに古紙リサイクルに回る本の割合は半分を超す。通常よりも20ポイントほど高い。それでも会社の認知度を高める効果は大きいといい、中村さんは「NPO支援がビジネスのエンジンにもなっている」と分析する。
チャリボンの支援対象にはNPOなど98団体に加え、97の大学、東日本大震災で被災して図書館再建に取り組む岩手県陸前高田市など4自治体も加わる。
NPOの資金調達に詳しいファンドレイジング・ラボ代表の徳永洋子さんはチャリボンについて、「社会貢献への敷居を低くし、善意の気持ちを表現しやすくした」と評価。「利用者に対し、NPOを通じた社会参加を自然な形で促す力も備えている」と話す。(小室浩幸)