ベンチ前に並んだ秀岳館女子野球部の選手たち=八代市古閑中町
高校野球のモヤモヤを考える
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「野球は男子がするものって考えをやめてほしい」(県内の女子野球部員)/「近年、女子選手の割合が増えている。均等にチャンスが与えられるべきだ」(県北の公立校・主将)=取材から
熊本県内の二つの高校で今年、女子野球部の活動が本格始動した。
秀岳館では昨年創部した女子野球部の部員が今春、規定以上の12人に達し、全国高校女子硬式野球連盟に登録した。多くは野球経験者で、女子野球部に入るために入学した部員が多い。
主将の秋枝遥香(2年)は小学生の時に野球を始めた。将来の夢はプロ野球選手だ。野球の魅力について、打撃や守備など選手それぞれの持ち味次第で「どんな人もいきる。みんなでカバーできる」と語る。
今年4月には甲佐に女子野球部が発足。3年生1人と1年生3人が入部した。今は男子野球部に交じって練習している。
全国高校女子硬式野球連盟によると、全国で登録されている女子硬式野球部は27校。まだ数が少ないため予選はないが、連盟に加盟する高校は増えており、全国大会も開かれている。
ただ、「野球は男子のもの」と考える風潮は今も強いと選手たちは感じる。
秋枝は練習をじろじろと好奇の目で見られることが気になる。昔から男子選手に多かった。「女子ごときが野球か、と見られていると感じる」。甲佐の吉永紅良羅(くらら)(3年)は「男子にちやほやされたいだけでしょって言われる」と話す。「そう思うなら一度練習をしてみればいい」
球を追う女子選手の表情は真剣だ。秀岳館の秋枝は豆だらけの手を見せて「いつものこと。慣れました」と言った。7月下旬に兵庫県である全国大会に向けて、毎日200回以上バットを振っているという。
秋枝は中学校までクラブチームで男子に交じって練習してきた。小学4年のころから女子の福岡県選抜だ。だが、中学2年のころ、足の速さや体力で男子にかなわなくなった。投手の癖を盗んだりバントをしたりと小技で体力差を埋めて出塁しようとしてきたが、「悔しいけど、ついて行けない」。そう思い始めたころ、秀岳館が女子野球部を作ると聞いて入学した。女子が相手の今、「普通に打って塁に出られる」と楽しそうに話す。
甲佐の吉永も小学3年から男子に交じって野球をしていたが、高校入学時に野球部に入部を申し込んだら当時の監督に許可を得られず断念した経緯があった。だから、「好きなことをできてうれしい」と言う。
未経験者も入部
女子野球の裾野は確実に広がりつつある。
秀岳館の玉城璃梨花(1年)は部で唯一の未経験者。中学では部活動をやっていなかったが、兄の母校で女子野球部ができると聞いて興味を持った。
何もかも初めての体験。練習でフライを捕り損ねて顔面に当たり、しばらく腫れたこともある。でも、「顔に当たって悔しくて、もっと頑張ろうと思った」。暇があれば素振りをし、動画にとって兄に送りフォームのアドバイスをもらう。寮の自室でも体幹を鍛え、寝たまま天井に球を投げてはキャッチを繰り返す。
6月、中学生との練習試合で、男子を相手に初めてボールを打ち返すことができた。アウトになったけど、うれしかった。「女子だからって逃げるんじゃなくて、男だけのスポーツじゃないって見せたい」
甲佐は部員4人のうち2人が未経験者。ボールを投げることも捕ることもできなかったが、今はフライだって捕れる。人数が足りず、他のチームと組まないと試合もできないが、「甲佐高校として試合に出たい」と部員たちは言う。同校は女子野球部が生徒獲得につながるとの期待もあって、遠方からの部員も受け入れられるよう女子寮の整備も検討している。
玉城は「男子に近づくのではなく、女子なりのプレーを見せられたらいい」と話し、「女子サッカーのなでしこジャパンのようにテレビで(プレーを)見せつけて、あこがれを見つけられるようになったら、女子野球の広がりにつなげられる」と将来を夢見る。
秋枝もそんな日を楽しみにしている。「いつか、(全国大会の)予選ができるようになったらいい」
=敬称略(杉山歩)