100キロマラソンの世界最高記録でゴールする風見尚さん=サロマ湖100kmウルトラマラソン事務局提供
愛知県の市民ランナー風見尚(なお)さん(35)が、24日に北海道で開かれたマラソン大会で、男子100キロの世界新記録となる6時間9分14秒で優勝した。20年ぶりの記録更新で、従来の記録より4分19秒速い。実業団の陸上部を退いてから個人練習を続けて成し遂げた快挙だ。「自分がうれしいというより、周りの方の喜んだ顔を見ることができてうれしい」と語る。
記録を出したのは、第33回サロマ湖100キロウルトラマラソン。スタートから先頭集団で競り合い、フルマラソン地点を2時間33分38秒で通過。70キロ台で単独1位に立った。
1キロ平均は約3分41秒で、終始10キロを36~37分台で刻むなど、ペースを大きく落とすことなくゴールした。100キロマラソンは3度目で、完走は2度目。「タイムより順位にこだわっていた。ここまで記録が出るとは思っていなかった」
東京都出身。中学から陸上部で長距離を始めた。駒沢大時代は、全日本大学駅伝など「大学3大駅伝」に出場することなく卒業。2006年に現在の勤務先である自動車部品メーカー「愛三工業」(本社・愛知県大府市)の陸上競技部に入った。だが4年で「戦力外」となって退部した。
退部後はフルタイムで働きながら趣味で走り、小学生に競技の指導をする日々を送った。しかし1年半後、母親の病気が発覚。「勇気づけるためにできること」を考え抜いた末、市民ランナーとして「もう一度速さを求めてやっていく」と決めた。
普段は午前4時40分に起き、45分ほど走ってから出社。退社後は曜日ごとに80分ジョグ、3~5キロのインターバル走、20~40キロ走といった練習を公園などでこなす。フルマラソンやウルトラマラソンなど年間10レース前後参加するという。
「(実業団時代に比べれば)苦労ばかりだと思っていたが、そうでもない。環境がよくなくても、ペースを落としてでも走る。耐える。時間がなくても効率的な練習ができている」。国内外の大会で何度も優勝し、今年1月にはフルマラソンで自己ベスト(2時間17分14秒)を出した。
今春、実績が会社から評価され、ランナー活動に関わる費用について一部支援を受けられることになった。練習環境に変わりはないが、再び会社のユニホームで大会に挑んでいる。
順風満帆なときばかりではないが、困難に直面しても「母親が暮らす東京にも届くような結果を出す」という目的と、そのための目標を常に意識してきた。出場が内定した第30回IAU(国際ウルトラランナーズ協会)100キロ世界選手権(9月、クロアチア)に向け、「世界最強をとりにいきたい」と意気込んでいる。(原知恵子)
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〈ウルトラマラソン〉 フルマラソン(42・195キロ)よりも長い距離を走る。50キロや100キロといった距離を定めたもののほか、一定時間を走るもの、ギリシャのアテネ―スパルタ間(245・5キロ)を走る「スパルタスロン」のような地点間を走るものなどがある。