後半、武藤と交代でピッチに向かう長谷部(中央)に声をかける西野監督=28日、ロシア・ボルゴグラード、関田航撮影
(28日、日本0―1ポーランド サッカー・ワールドカップ)
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それは、日本代表が“負け”を受け入れた瞬間だった。
日本が勝つか引き分ければ、自動的に決勝トーナメント(T)進出となるポーランド戦は0―1で後半37分を迎えていた。西野朗監督が、3人目の交代カードを切る。送り出したのは攻撃的な選手ではなく、守備的MFの長谷部誠だった。
ピッチ上の選手たちへのメッセージを託した。「リスクは冒すな。守備的にバランスを取れ。スコアはこのままでいい」。監督人生で初めての指示を加えた。「不用意なファウルは、避けろ」
この時点、紙一重でH組2位という状況だった。3位のセネガルとは勝敗や得失点の差はなく、フェアプレーポイントで警告が二つ少ないだけ。どちらの試合も動かなければ、日本が勝ち上がれる。
ピッチの選手に得点は期待できないとみた。35度を超える暑さの中、消耗が激しい。第2戦から先発6人を入れ替え、うち3人がW杯初出場だった。攻撃にちぐはぐさが目立っていた。
1分ごとにセネガル戦のスコアを確認した。「時間が過ぎていくなかで決断を迫られた。完全に他力。監督としては、究極の選択だったかもしれない」。セネガルが同点に追いつけば、すべてが泡と消える賭け。
それに勝った。選手たちは無難にパスをつなぎ、時間をやり過ごした。セネガルもそのまま敗れた。
試合後、会見場の表情は複雑だった。強気の采配を貫いた過去2試合のような張りは無い。「自分の心情としては不本意。選手たちにブーイングを浴びながらのプレーをさせてしまった」
指揮官の心中をよそに、MF本田圭佑は言った。「結果がすべて。すばらしい采配だった。僕が監督でも、これは出来なかった」。長谷部も「見てくださった方にはもどかしいサッカーになったけど、これがサッカー」。
勝負師、苦渋の一手。選手が理解し、運も手伝って、実った。(清水寿之)