7月に選考がある芥川賞候補作、北条裕子さん(32)の「美しい顔」(「群像」6月号掲載)が主要な参考文献を明記していなかった問題で、参考文献のひとつとされるルポルタージュ「遺体」の作者、ノンフィクション作家の石井光太さんと出版元の新潮社が29日午後、コメントを発表した。
芥川賞候補作、参考文献示さず類似表現 掲載誌でおわび
石井さんは北条さんと講談社から謝罪文を受け取ったとし、「東日本大震災が起きた直後から現地に入り、遺体安置所を中心として多くの被災者の話を聞き、それぞれの方の許諾をいただいた上で、まとめたのが『遺体 震災、津波の果てに』(新潮社)です。北条裕子氏、講談社には、当時取材をさせていただいた被災者の方々も含め、誠意ある対応を望んでいます」と書面で述べた。
新潮社ノンフィクション編集部は「複数の類似箇所が生じていることについては、単に参考文献として記載して解決する問題ではないと考えています。北条氏、講談社には、類似箇所の修正を含め、引き続き誠意ある対応を求めています」とした。
「美しい顔」は、東日本大震災で被災した女子高生の視点で描かれた短編。5月に群像新人文学賞を受けた。講談社によると、北条さんが震災直後の遺体安置所の様子などを描くにあたり、石井さんの「遺体」から「大きな示唆を受けた」が、「文献の扱いに配慮を欠き、類似した表現が生じてしまった」という。
「遺体」には「床に敷かれたブルーシートには、二十体以上の遺体が蓑虫(みのむし)のように毛布にくるまれ一列に並んでいた」との記述がある。一方で、「美しい人」には「すべてが大きなミノ虫みたいになってごろごろしているのだけれどすべてがピタっと静止して一列にきれいに並んでいる」との表現がある。
半田正夫・青山学院大名誉教授(著作権法)は「事実関係や描写を取り込んではいるが、表現そのものを変えているため著作権の侵害とは言いにくい。ただ、参考文献は最初から明示すべきだった」と話す。