トヨタ自動車系の大手8社が7月31日発表した2018年4~6月期決算は自動車生産の伸びで全社が増収、4社が増益と好調だった。勢いづく一方、「シェアリング・電動化」の大波が押し寄せ、「人手不足」「米国の保護主義」という逆風も吹く。各社とも先行きに慎重さを崩していない。
アイシン精機は7月、本業とは異なる新サービスを愛知県内で始めた。スギ薬局と組み、買い物や通院の高齢者らを乗り合いで送迎する試み。カーナビ技術をいかしたシステムを使い、最適な経路や乗り降り順を計算できる。海外で広がるライドシェアにもつながる技術で、事業化をめざす。
新事業へ対応急ぐ シェアリング・電動化の大波
アイシンは、主力の自動変速機(AT)が好調で、18年4~6月期決算は売上高が過去最高を更新。それでも未知の分野に乗り出すのは、「モノ売りだけで生き残れるか危機感がある」(小沢保夫理事)からだ。
世界的な環境規制強化を受けた電気自動車(EV)シフトも、部品各社には懸念材料。EVは、エンジン車やハイブリッド車(HV)と比べて構造が簡単で、家電メーカーなども交えた開発競争は激しさを増す。豊田自動織機がEV向け電池事業への参入を検討するなど、既存事業にとらわれず対応を急ぐ。
激しい技術者争奪戦
人手不足も課題だ。6月の愛知県の有効求人倍率は約11年ぶりに2倍台になった。「求人競争は厳しいが、私たちが期間工をどんどん採ると小規模な企業が採れなくなる」(デンソーの松井靖常務役員)。
自動運転などの次世代技術の開発を支える技術者の争奪戦も激しく、愛知県内だけでは限界との見方もある。そこで、デンソーとアイシンは3月、トヨタと3社で東京にソフトウェア開発会社を設立。人材の囲い込みに本腰を入れている。
米保護主義 減益の見通し
保護主義色を一層強める米トランプ政権の動向も気がかりだ。米政権は、鉄鋼・アルミニウム製品への高関税を発動したのに加え、輸入車や部品に対する高関税措置も検討している。
鉄鋼・アルミ製品への関税の影響はすでに顕在化。デンソーやジェイテクトは19年3月期の営業利益が20億円ほど、アイシンも約10億円が押し下げられるとみる。デンソーは検討中の高関税措置が実現すれば「年間で700億~800億円の営業減益要因になる」との試算を31日に公表し、豊田合成も数十億円の減益になると見通しを示した。
こうした懸念がさらに深刻になると、部品各社が前提とするトヨタの国内生産「年間300万台」を揺るがす恐れもある。
今後は、各社で重複する事業の集約や、強みをさらに伸ばす戦略も求められる。特殊鋼メーカーの愛知製鋼は、磁石関連製品を新たな収益源に育てようとしている。知野広明常務執行役員は「やっていかないと『めしの種』がなくなる」と、将来を見据えた改革を急ぐ考えを強調した。(竹山栄太郎)
トヨタ系大手は4社が増収増益
売上高 純利益
デンソー※ 1兆3311(14.3) 772(0.8)
アイシン精機※ 1兆0079(9.9) 401(27.4)
豊田自動織機※ 5221(17.2) 534(▼10.9)
ジェイテクト 3763(12.1) 126(▼22.3)
トヨタ紡織 3444(3.6) 63(▼36.5)
豊田合成※ 2055(9.3) 67(30.7)
愛知製鋼 617(9.4) 17(▼45.3)
豊田通商※ 1兆6500(4.8) 466(26.0)
2018年4~6月期。億円。かっこ内は前年同期比増減率%。▼はマイナス。※は国際会計基準