日本新聞協会は5日、2018年度の新聞協会賞を発表した。朝日新聞社は編集部門で「財務省による公文書の改ざんをめぐる一連のスクープ」(東京社会部・大阪社会部の取材班)、技術部門で「編集部門向けデジタル指標分析ツール『Hotaru(ホタル)』の開発」が選ばれた。10月16日に仙台市で開かれる第71回新聞大会で授賞式がある。
改ざん「あり得ない話ではない」 調査報道で明らかに
Hotaruでデジタル分析 読者ニーズ読み取り応える
森友学園問題をふりかえる
改ざん問題は3月2日付朝刊で初めて報じた。学校法人・森友学園との国有地取引をめぐる財務省の決裁文書が書き換えられた疑いがある、とスクープした。さらに、財務省が事実関係の認否を明らかにしないなか、当初の決裁文書に記載された内容が項目ごとなくなっていることなどを続けて報道した。
最初の報道から10日後、財務省は14件の文書で改ざんを行っていたことを認め、公表した。国会議員秘書から取引について照会を受けていたとの記載や、安倍晋三首相の妻昭恵氏をめぐる記載を文書から削除し、国会や会計検査院に提出していたことが明らかになった。
国有地取引をめぐる問題は、2017年2月に朝日新聞が報じた記事などで表面化した。文書の改ざんは同年2月下旬から4月にかけて行われており、同時期には関連文書の廃棄を進めていたことも分かった。財務省は今年6月、当時理財局長だった佐川宣寿氏が改ざんや破棄を主導したとし、佐川氏ら当時の幹部職員らを処分した。
公文書管理法で「民主主義の根幹を支える」と定められる文書を改ざんした事実は社会に衝撃を与え、財務省は厳しい批判を受けた。新聞協会は授賞理由で、「民主主義の土台を根底から揺るがす行為を明るみに出した一連のスクープは、歴史に残る優れた調査報道」などと評した。
技術部門で選ばれた「Hotaru」は、ニュースサイト「朝日新聞デジタル」に配信した記事が読者にどのように読まれたかを可視化するために開発した分析ツール。よりニーズの高い記事を作成し、求められるタイミングで配信するうえで、記者や編集者の意識向上に役立つことが評価された。
技術部門の授賞は「Hotaru」のみ。編集部門のその他の受賞は次の通り。
毎日新聞社「旧優生保護法を問う」▽河北新報社「止まった刻(とき) 検証・大川小事故」
授賞理由・編集部門
編集部門で新聞協会賞に選ばれた「財務省による公文書の改ざんをめぐる一連のスクープ」の授賞理由は以下の通り。
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朝日新聞社は、取引の不透明さが指摘されていた学校法人森友学園への国有地売却に関し、財務省が決裁文書を書き換えたうえで国会議員に提出していた事実を、平成30年(2018年)3月2日付朝刊1面で特報した。
続報で具体的な書き換えの内容を詳報したことにより、財務省が改ざんの事実を認め、関係者を大量処分する事態につながるとともに、公文書管理のあり方に一石を投じた。
民主主義の土台を根底から揺るがす行為を明るみに出した一連のスクープは、歴史に残る優れた調査報道として高く評価され、新聞協会賞に値する。
授賞理由・技術部門
技術部門で新聞協会賞に選ばれた「編集部門向けデジタル指標分析ツール『Hotaru』の開発」の授賞理由は以下の通り。
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朝日新聞社は、ニュースサイト「朝日新聞デジタル」に配信したコンテンツが読者にどう読まれたかを記者や編集者にリアルタイムにフィードバックするデジタル指標分析ツール「Hotaru」を自社開発し、平成28年(2016年)10月に導入した。オープンソースソフトウェアを活用することで開発費用を抑えるとともに短期間で実運用に結びつけ、改修も容易な柔軟性のあるシステムとした。コンテンツごとにページビューやコンバージョン(会員登録)、外部プラットホームからの流入数などのデジタル指標が一覧でき、記者のデジタルマインドの醸成に寄与するとともに、デジタル会員の増加にも結びつけた。
技術部門主導の下、紙とデジタルの共生に向けデジタル指標を可視化し、記者の意識改革と編集部門のワークフローの見直しにつなげたことは画期的であり、広告営業など他部門での活用も期待できる発展性のある技術として高く評価され、新聞協会賞に値する。