韓国の観光地として知られる朝鮮時代の王宮・景福宮(キョンボックン)を抱えるソウル市鍾路区が、チマ・チョゴリに代表される韓国の伝統衣装、韓服(ハンボッ)を西洋風に変形した「フュージョン(融合)韓服」の規制検討に乗り出し、物議を醸している。背景にはコスプレブームの影響などで、伝統とかけ離れた韓服を着て歩く若者らが急増したことがあるが、「美意識への介入」との批判が起きている。
きっかけは9月中旬、韓服専門家らを交えた「私たちの服を正しく着る討論会」での金永椶(キムヨンジョン)区長の発言。伝統衣装の保全策として、韓服を着た人は景福宮などの観光地の入場が無料となったり、周辺の飲食店で割引を受けられたりしてきたが、「伝統でないものにも恩恵を与えるのは問題だ」と見直しを提起した。
外国人観光客らに人気の韓服レンタル店が最近、巻きスカートのすそをドレスのようにふくらましたり、腰にリボンをつけたりといったフュージョン韓服の貸衣装を増やし、客集めを競うようになっていた。韓国の若者の間でも、こうした衣装を着て景福宮などで撮影した写真をSNSに投稿するのが流行。提言には、特典の対象となる韓服の定義を厳格化することで、伝統とかけ離れた衣装を淘汰(とうた)するねらいがある。
これに対し、韓国の主要紙「中央日報」はコラムで「王朝時代であるまいし、『宮廷の品格』をドレスコードで守ろうとするのか。これは美意識の問題だ」と疑問視。若者からも「時代遅れの発想」との批判が出ている。もともと韓国では韓服のデザインや機能を現代風にした「改良韓服」が普及しており、「正しい韓服」の基準作りが容易でない現実もある。(ソウル=武田肇)