豊胸や乳房の再建術でバッグ型の人工乳房を入れた後に感じた体の不調について、米食品医薬品局への報告が今年上半期で約8300件に上ることが、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の調査でわかった。バッグにシリコーンを入れたタイプは米国や日本で使用が認められているが、医学界では安全性をめぐる議論が続いている。
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ICIJは米食品医薬品局に届けられた豊胸や乳房の再建術に関する内容を分析した。施術後の不具合は2008~16年に毎年171~371件で推移したが、同局は昨年、報告義務を従来の機器メーカーから輸入業者や医療従事者にも広げ、患者からの報告も統計に含めるよう変更。すると、昨年は前年比10倍超の4642件、今年1~6月は8345件に増えた。
届け出対象の製品は、米国で販売・使用が認められた医療機器メーカー4社のシリコーンや生理食塩水が入ったバッグ型の人工乳房計8製品。このうち1社のシリコーンが素材のものは日本の厚生労働省も承認し、乳がんの手術で乳房を切除した後の再建手術で保険適用される。
同局は件数の増加についてICIJの取材に、届け出範囲の拡大が主な要因とし、新たな健康問題が浮上したとの見方を否定。ただ、来年3月に施術と健康被害の関連性などをテーマにした会議を開くという。
103カ国の美容形成外科医でつくる国際美容形成外科学会(本部・米国)によると、こうした施術を受ける人は世界で近年、年間100万人を超える。
米国では施術で使う製品を巡り、1980年代以降、自己免疫疾患や希少性がんなどの発症を指摘する声が相次いだ。一方、日本国内ではシリコーン製バッグにかかわる被害の報告は多くない。自己免疫疾患とみられる症状を訴える例はあるものの、希少性がんの発症は確認されていない。
形成外科医で豪マコーリー大学のアナンド・ディーバ教授はICIJの取材に、「シリコーン製バッグが原因で合併症を引き起こす可能性は低くない。問題への対処は不十分で、安全性の担保は欠落したままだ」としている。
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米ミシガン州デトロイト郊外に住むローラ・ディカラントニオさんは13年12月、乳がんで切除した左の胸に、アイルランドの医療機器メーカーのシリコーン製バッグを入れた。この製品は10カ月前に、米食品医薬品局が承認した。
手術前には米国で起きた安全性を巡る論争が頭をよぎったが、形成外科医の「シリコーンが危険だというのは過去の古い話。体に大きな支障が出ることは生涯ない」という言葉で決断した。当時は5歳と7歳の娘がおり、他の方法より入院期間が短いという説明も魅力的だったという。
手術から約2年半後、急に左腕…