花粉症やぜんそくを予防する仕組みを、国立成育医療研究センターなどのチームが見つけた。すでにある薬を使い、動物実験では極めて有効だと確認された。もとになったのは、今年7月に亡くなった免疫学の世界的権威、石坂公成博士が30年以上前から温めていたアイデアだった。
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今回の技術は、免疫の最も基本的な仕組み「抗原抗体反応」を使った。ウイルスなどの病原体や異物が体内に入ると、免疫細胞が作った抗体が結合。その際、異物の表面のたんぱく質を目印にしてとりつく。
アレルギー反応は、花粉や食べ物など本来無害な物質が体内に入り、抗体の免疫グロブリンE(IgE)に結合することで始まる。IgEはヒスタミンなどの刺激物質を出す細胞の表面にもあり、原因物質と結合すると、刺激物質を出して、かゆみやくしゃみ、じんましんなどの症状を引き起こす。
チームはIgEが体内に増える前に、胎児や新生児の時期にだけ出現し、IgEを生産する特殊な免疫細胞「mIgE陽性B細胞」に着目。その表面に現れるIgEに、人工的に作った抗体を結合させ、自殺させた。体内のmIgE陽性B細胞を「異物」に見立て、その表面のIgEを目印にした。
mIgE陽性B細胞を除去しておけば、花粉や食べ物などの原因物質に触れても、アレルギーを引き起こすIgEがないため、アレルギー反応が起きない。
従来の治療は、アレルギー体質になった後に対処するやり方だった。発症後にステロイドを使ってアレルギー反応による炎症を抑えたり、原因物質に慣れさせる「減感作療法」で悪化を予防したりする方法などだった。今回はアレルギー体質になる前に根元から原因を絶つ。
IgEは本来、寄生虫やダニなどに対する防御機能として体に備わっている。だが、IgEは衛生的な生活を送る現代社会では不要な物質だ。花粉や食べ物などの本来ヒトには無害なものに対しても反応し、様々な症状を起こす。
厚生労働省の検討会が9月にまとめた「免疫アレルギー疾患研究10カ年戦略」では、日本人の2人に1人が何らかのアレルギー疾患を抱えており、今も数が増えていると指摘。リスクが高い人に対し、「予防的・先制的治療」の重要性を盛り込んだ。今回の治療法がそうした治療の一つになると期待されている。
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