厚生労働省の「毎月勤労統計」をめぐる問題で、与野党は15日、不正な調査を始めた経緯や動機、組織的関与などの全容解明に向けた議論を本格化させた。厚労省の統計取り扱いのずさんさや意識の低さには厳しい批判が相次いだ。与野党は閉会中審査を行う方向で一致、今月下旬に召集される通常国会でも焦点になる。
勤労統計では、従業員500人以上の事業所はすべて調べるルールとなっているのに、厚労省は2004年から15年間にわたり、東京都分は抽出調査を行い、さらに昨年1月からは全数調査結果に近づける補正も実施。いずれの手法も公表していなかった。
安倍晋三首相は15日昼、首相官邸で開いた政府与党連絡会議で、「統計の信頼が失われる事態で、誠に遺憾であり、大変重く受け止めている。国民に不利益が生じないよう万全を期して必要な対策を講じる」と述べた。公明党の山口那津男代表は「政府全体としての責任を猛省するべきだ」とした。
自民党の森山裕、立憲民主党の辻元清美の両国会対策委員長は国会内で会談し、衆院厚労委員会の理事懇談会を17日午前に開催することで合意。同委の閉会中審査を行う方向でも一致した。自民の二階俊博幹事長は役員会後の記者会見で、「信頼を揺るがす行為だ。党としても政府に厳重に注意を求めたい」と述べた。
公明は厚労部会などの合同会議を開催。高木美智代部会長は冒頭で「政治、行政への信頼が大きく失墜した」と指摘。さらに「なぜ、抽出調査にしたのか。この間、おかしいと思った職員はいなかったのか、いても声を出せなかったのか。閉鎖的な行政姿勢が厳しく問われる」と批判した。
これに対し、大口善徳・厚労副大臣は「極めて遺憾であり、深くおわび申し上げます」と謝罪したが、動機や組織的関与といった疑問点の解決につながる説明はなかった。また、公明側からの調査のための第三者機関の新設要請に対し、厚労省はすでに省内に設置されている弁護士らによる監察チームで調査を続ける方針を説明した。
立憲民主党も厚労部会を国会内で開き、問題の原因や責任の所在を徹底究明する方針を確認した。
抽出調査により雇用保険や労災保険などの給付額が本来より少なかったのは延べ約1973万人にのぼる。厚労省が11日に開設した「相談ダイヤル」には14日までに約1万2千件以上の相談が寄せられた。厚労省は過少給付分の支払い開始時期をまだ明確にしていない。
統計不正 何が問題か
●全数調査をするべき「500人以上の事業所」について、2004年から東京都分で抽出調査を開始
→経緯や関与した職員は?
●不正な抽出調査を容認する記述がある「事務取扱要領」
→作成経緯と関与した職員は?
●昨年1月に東京都分を本来の調査対象数に近づけるよう補正する統計システムの変更
→経緯や関与した職員は?
→なぜシステム変更を公表しなか ったのか?
●昨年6月に神奈川、愛知、大阪3府県へ19年から抽出調査に切り替えると通知
→経緯や関与した職員は?
●雇用保険や労災保険などの給付額が少なかった延べ約1973万人への追加給付
→追加給付を始める時期は?
→現住所不明や関連書類がない場 合の対応は?