(24日、大相撲初場所12日目)
相撲特集:どすこいタイムズ
本来、座布団は投げてはいけない。でも、投げずにはいられない。結びの一番、そんな場内の熱気を玉鷲が夢見心地で受け止めた。「第三者から見ている感じ。気持ちいいですね」。初対戦から9年、白鵬にやっと土をつけた。
四つに組ませはしなかったが、張り手まじりの突きで俵際まで後退させられた。しかし、左へいなしてからの左手の突きで白鵬の体が回転。玉鷲が背中を見せた相手に猛然と襲いかかり、押し出した。
いなしの場面。2人の心中は対照的だった。玉鷲は「これまでは熱くなりすぎて、脇が甘くなり(懐に)入られていた。今回は落ち着いていけた」。白鵬は「まあ、勝負あったと思ってしまった。ツメが甘いね」と振り返った。
2人の言葉を並べれば、阿武松審判部長(元関脇益荒雄)の分析がすとんと落ちる。番付下位に、ムキになって勝負を焦った白鵬について「上体が伸びていたので、あのままでは(突き出しだけで)持っていけない。(白鵬は)もうちょっと見ることが大事だった」。
玉鷲は2004年初場所の初土俵以来、一度も休場がない。この日で現役最多の連続出場を1148回に伸ばした34歳が、けがによる休場が相次ぐ新春の主役に躍り出たのは何かの巡り合わせか。
「優勝を意識したら大体いいことがない。一番一番気合を入れて、(お客さんを)楽しませたい」と玉鷲は穏やかだ。一方、2連敗の白鵬は「また3日間、引っ張っていくだけ」と表情を引き締めた。
突如、1差に5人がひしめく混戦状態になった。くしくも11日目の朝、一人旅だった白鵬が「一ファンとしては千秋楽まで楽しみたいね」と余裕を漂わせていた展開になりそう。だから、勝負事は面白い。(金子智彦)