エメラルドグリーンの水面にもやがかかり、枯れたヒノキの樹影が映る。優雅に泳ぐコイが、幻想的な雰囲気を醸し出す。山口県下関市豊田町にある一(いち)の俣(また)桜公園の砂防ダム。昨春ごろから「インスタ映え」するとSNSで人気に火がついた。ごみなどのマナー違反も増え、地元住民が困惑する事態にもなっている。
砂防ダムは、豊田町の一の俣温泉から国道を北に5キロほど行った場所にある。県が1994年、一ノ俣川に造成し、立ち枯れしたヒノキが腐らずに残った。水が深い緑色なのは透明度が高いから。ただ、幻想的な風景にめぐり合えるかどうかは運次第。利水が目的のダムではないため、雨が降らない日が続くと、水を広大にたたえた風景にはお目にかかれない。
この景色を守り、育んできたのは地元の一ノ俣地区の住民たち。地区に住む宮川道義さん(82)がダムを管理する県の許可を取り、2003年に仲間たちと整備を進めた。草木を刈り、各世帯がお金を出し合って砂防ダム周辺に200本の桜を植えた。地元で協力してコイ2500匹を放ち、一の俣桜公園と名付けた。
ダムがあるのは、65世帯ほどの一ノ俣地区の集落からやや離れた地域。公園の整備後もしばらくの間は知られることもなかったが、昨年春に転機が訪れた。
県から下関市に問い合わせがあり、その後、関西や中国、四国地方で発行されている旅行雑誌に掲載された。次第にSNSでも広まった。評判を聞きつけた旅行会社は昨年秋、人気観光地の角島大橋(下関市)や元乃隅神社(山口県長門市)と組み合わせたバスツアーも実施した。
一方で、多くの観光客が訪れるようになり、ごみのポイ捨てなどの問題が起きるようになった。宮川さんは「国道を通るドライバーらに楽しんでもらいたいと整備した公園。管理は地元住民のボランティアなので、マナーを守って楽しんでほしい」と話している。(山田菜の花)