山口県の周防大島(周防大島町)と柳井市を結ぶ大島大橋に貨物船が衝突し、送水管が破断した事故から22日で1カ月。損害額は橋や送水管の復旧費だけで28億円余りにのぼるが、船主による賠償額を制限する法律もあり、賠償の見通しは立たない。長引く断水で打撃を受けた島民らは不安を募らせる。
「個人経営の店には、かなり痛手です」。島で美容院を営む木村順子さん(43)はこぼす。断水で営業時間の短縮を迫られ、橋の通行規制で3割ほどいた島外の客は遠のいた。この1カ月間の売り上げはふだんより約20万円減った。
洗髪に使う水は毎日、給水所から運ぶ。湯を沸かすため風呂用のヒーターを4万円で買った。それでも普段通りのサービスが提供できず、客に割引券を渡すなど余分な出費もかさむ。「賠償は橋の修復やホテルなどが優先され、難しいんじゃないですかね」。半ば諦め顔で話した。
506の個人や企業が加盟する周防大島町商工会には事故後、100件以上の相談が寄せられ、半数が賠償に関するものだった。「専門知識もないし、商工会で対応できる話ではない」。中川利之経営指導員は頭を抱える。
損害額は巨額になりそうだ。判明分だけで、橋の復旧に約25億7千万円、仮の送水管の敷設に約2億5千万円。このほか、休業したホテルや店舗の売り上げ補償、本土に渡るための臨時船の運航費など、損害の範囲は多岐にわたる。
村岡嗣政知事は「受けた損害は全て請求したい」と、事故直後に各部署の職員を集め、賠償の範囲や請求の手順を島民らに示すためのチームを立ち上げた。だが、1カ月近く経っても具体的には示せていない。
海難事故に詳しい田川俊一弁護士によると、賠償請求には損害を証明する書類などを用意する必要がある。店の売り上げの減少額や、水を運ぶポリタンクの購入費、島外に洗濯に出た際のガソリン代なども認められる可能性はあるが、「数万円なら、手続きのための費用の方が高くつく可能性が高く、現実的ではない」と話す。
さらに船舶事故では、船主が負担する賠償額に上限を定める船主責任制限法の壁がある。事故を起こしたマルタ船籍の貨物船エルナ・オルデンドルフ(2万5431トン)の場合、上限は約24億円という。
船を所有するドイツの海運会社…