名古屋港は貨物取扱量が日本一の港だ。港を横切る伊勢湾岸道の三つの巨大つり橋「名港トリトン」から見おろす埠頭（ふとう）は、おびただしいコンテナや船積みを待つ自動車で埋めつくされている。南海トラフ地震で大津波が来たら、名古屋港はどうなるのか。

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昨年９月の台風２１号で大阪湾は高潮に襲われた。神戸港と大阪港のコンテナターミナルからは７１個のコンテナが流され、海に浮かんだ。

うち４３個が流出した神戸港には過去最高だった１９６１年の第２室戸台風を超える高潮が押し寄せた。流出したコンテナの中には７キロ漂流したものもあった。

神戸市海岸防災部によると、流出した多くは空のコンテナだった。「流されないための十分な固定がされていなかった」という。

東日本大震災の大津波では、仙台、八戸、釜石の各港の岸壁で船積みを待つトヨタ自動車グループ企業の完成自動車１７９１台が流された。岸壁に並んでいた車はぶつかりながら陸側に運ばれ、部品を積んだトレーラー４５台も流れた。

岸壁「津波かぶらない」想定で対策

昨年１１月、トヨタの輸出拠点である名古屋港の「新宝ふ頭」で、大津波を想定した自動車運搬船の緊急出港訓練があった。

地震発生から津波の到来まで１時間を想定。積み込み作業を中止し、船と岸壁をつなぐ太さ約１０センチのロープを切断し、船を沖合に避難させる訓練だった。

輸送船が緊急出港した後の岸壁には積み込まれなかった自動車が残る。トヨタによると、岸壁に並ぶ自動車は最大で約８千台。近くに２カ所ある自動車一時保管用モータープールは計約４万台を収容できる。

名古屋港では、ほかにも「金城ふ頭」「弥富ふ頭」が自動車各社の輸出拠点になっている。名古屋港の輸出取り扱い重量の７割を自動車と自動車部品が占める。また「潮見ふ頭」は国内向けの積み出し拠点だ。

名古屋港管理組合危機管理課によると、名古屋港の主な岸壁は名古屋港の基準水面から４・８メートルの高さで造られている。満潮時の潮位は最大２・６メートルで、そこに南海トラフ地震で想定される最大の津波が来ても、「岸壁はぎりぎりで水をかぶらない」と組合はみる。

空のコンテナや自動車は３０センチほどの水深で流されるが、「そこまではいかない想定」だという。仮に自動車やコンテナが流されても、伊勢湾台風後に造られた防潮壁が内陸にあり、市街地に流れ込む心配はないという。

名古屋大学減災連携研究センター長の福和伸夫教授は「名古屋港は高潮が心配だが、津波には意外に大丈夫ではないか」という。むしろ「千年に１度の大地震でも絶対に大丈夫と言えるハード面の備えは現実的ではない。求められるのは発災後の対応だ」と指摘する。

コンテナ事業者 津波時は「人命優先」

福和教授が挙げる不十分な点はこうだ。大型輸送船が一斉に緊急出港するときのタグボートが足りない。輸送船の多くは港の奥に向かって接岸する構造になっているので緊急出港に手間取る。大阪や神戸港と名古屋港が同時に被災したら、海底の障害物を取り除くための浚渫（しゅんせつ）船やソナーが足りない、などの点だ。

大地震で東海地方の市街地が大きな被害を受けると、名古屋港は緊急物資輸送の受け入れ拠点になる。名古屋港の港湾機能継続計画（名古屋港ＢＣＰ）は、発災後３日以内に「最小限の海上輸送ルートを確保」し、７日以内に燃料、電気、ガスの供給につながる緊急物資も受け入れられる態勢を目指している。

トヨタは完成車が水につからないようにするため、港の一時保管場所の液状化対策や、輸送再開に向けて浚渫船を自前で確保することなどを目指して準備を進めている。

名古屋港が拠点の港運会社の担当者は「関西のようなコンテナ流出はひとごとではない」と話す。名古屋港では、台風接近前までに各事業者がコンテナ同士をロープでしばるなど、高潮による流出を防ぐ対策をとることにしている。

ただ台風は、接近までに時間の余裕があるからできるが、津波について担当者は「もし想定を超える津波がきたら、コンテナすべての対策をしている時間はない。従業員の避難を最優先にせざるを得ない」とも明かす。（古庄暢、六郷孝也）