韓国大法院(最高裁)が三菱重工業に対し、元女子勤労挺身(ていしん)隊員らへの賠償を命じた判決をめぐり、同社の商標権と特許権が差し押さえられたことについて、菅義偉官房長官は25日の記者会見で、「極めて深刻だ」と批判した。その上で「日本企業の正当な経済活動の保護の観点からも引き続き、適切に対応していきたい」と述べた。
元徴用工や元女子勤労挺身隊員らに対する賠償問題をめぐっては、日本政府は日韓請求権協定で解決済みとの立場だ。今年1月には協定に基づく協議を要請。再三の督促にもかかわらず、韓国政府が応じていないことから、日本政府は協定に基づいて、日韓と第三国による仲裁手続きに入る方針を固めており、その時期を慎重に検討している。
菅氏は25日の会見で仲裁手続きについて問われ、「どのタイミングで何を行うかという具体的な内容については我が方の手の内を明かすことになるので差し控えたい」と明言を避けた。外務省幹部は元徴用工訴訟で新日鉄住金の資産もすでに差し押さえられていることから、「新たな段階に入ったわけではない」として、当面は協定に基づく協議に応じるよう求める考えだ。
一方で、自民党などからは韓国に対し、経済的な「対抗措置」を求める声が高まっている。麻生太郎財務相は12日、衆院財務金融委員会で措置の具体例として「関税(引き上げ)に限らず、送金停止、ビザの発給停止とかいろんな報復措置がある」と例示した。
ただ、日本政府内ではこうした措置について「デメリットの方が大きい」(外務省幹部)との見方が大勢だ。日韓が対抗措置の応酬になりかねず、経済への影響が大きいためだ。
財務省によると、昨年の韓国への輸出額は約5・8兆円で、中国、米国に次ぐ規模。輸入額も約3・6兆円で第5位だ。また、昨年の韓国からの訪日客数は約754万人で過去最多となった。政府関係者は「対抗措置と言っても嫌がらせレベルのことしかできない」と言う。(竹下由佳、鬼原民幸)