白砂のビーチと太古の峡谷群。オーストラリア北西部のキンバリー地方には、そんな光景からは想像できない課題がある。自殺者の割合が「世界最悪」なのだ。歴史に翻弄(ほんろう)された先住民(アボリジナルピープル)の苦悩が、美しい土地に影を落としている。(ブルーム=小暮哲夫)
キンバリー地方の中心の町ブルーム。ジェイコブ・スミスさん(22)の親友が自ら命を絶ったのは4年半前のことだ。芸術舞台の音響や照明設営を学ぶ職業訓練コースで、ともに学んでいる時だった。
親友は家を出て、車で寝泊まりしていた。子供のころ家族から虐待を受けていたふしもある。それでも自殺は予想できなかった。スミスさんの18歳の誕生日が目前で、「お祝いしようとメッセージを送り合ったばかりだった。自殺すると決めていて、最期に幸せそうな様子を見せたかったのではないか」と悔やむ。
スミスさんにとって、身近な人…