元侍従長・渡辺允さん
【特集】両陛下「祈りの旅」をたどる
【特集】平成から令和へ
天皇陛下は日本国と日本国民統合の象徴であることを念頭に、皇后さまとともに常に国民の幸せを願われ、自分たちは何をすべきか、一つ一つ考えてこられました。じっくりと考え、決断したら実行に移し、始めたことは長く継続させるご性格です。それが戦没者慰霊や沖縄に対するご配慮、被災地訪問や障害者支援などに結実しました。
侍従長として10年半、天皇、皇后両陛下にお仕えしましたが、印象に残っていることの一つは、いくら公務や宮中祭祀(さいし)の負担軽減をお勧めしてもなかなか受け入れられなかったことです。昭和天皇がご高齢のため一部の祭祀をご代拝にするなど、簡略化を始められた年齢に達しても、陛下は「自分はまだできるから(代拝の)必要はない」と祭祀をお続けになりました。私が侍従長時代に減らせたのは、皇族方が総裁などを務める団体などの拝謁(はいえつ)(年6件)だけでした。
両陛下が国民一人一人を思われるお気持ちは、常に変わることがありません。
例えば地方訪問先で沿道に他の奉迎者がいない時でも、道ばたの一軒の農家の人が一人で手を振っているのを目にすると、必ず車の速度を緩めさせ、手を振ってお応えになります。また、被災地で活動している自衛隊や警察の代表らに「ありがとう」とおっしゃいますが、これは実際に助けてもらっている被災者に代わってのお言葉とも言えます。限りなく当事者に近い立場に立とうとされており、それが被災者の心に深く響くのだと思います。両陛下が国民のために全力で歩まれてきた30年余りのお姿に、国民が信頼と敬愛の気持ちを抱いてきたからこそ、一種の相互信頼関係が生まれたのではないでしょうか。
お互いを支え合う両陛下のお姿…