高校野球の春季四国地区大会で、今春の選抜大会に21世紀枠で初出場した富岡西(徳島1位)が、初の決勝進出を決めた。4日に愛媛・坊っちゃんスタジアムであった準決勝で、選抜大会で16強入りした高松商(香川1位)に4―3でサヨナラ勝ち。持ち味の「ノーサイン野球」が進化していることを印象づけた。
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富岡西は2―3で迎えた九回、2四球と敵失で1死満塁とし、阿部航一郎(3年)の中犠飛で同点に追いついた。その直後。外野から内野へ球が返り、投手へ転送される時だった。
「こっちを意識していない。行ける」
二塁走者の粟田翔瑛(しょうえい)(同)が、土壇場で同点に追いつかれた高松商の動揺を見逃さなかった。走者の進塁に無警戒な隙をついて、三塁を陥れた。この「好走塁」が、勝利につながる。後続の3番・坂本賢哉(同)への投球が暴投となり、粟田がサヨナラの本塁を踏んだ。
高松商は、3点あったリードを八回に1点差まで縮められ、九回のマウンドには2番手投手が上がったばかり。富岡西の選手たちは、追い込まれた投手の心理を見透かし、積極的に動いて逆転劇を呼び込んだのだった。
八回の攻撃も伏線になっていた。1死三塁で4番の前川広樹(同)がスクイズを試みた。バントの打球はファウルになって成功はしなかったものの、三塁走者の坂本はどんぴしゃのタイミングでスタートを切った。坂本と前川の間には、合図もなかったのに、だ。
前川が「こういう場面を何度も練習していたので、坂本を信じた」と言えば、坂本も「直前に相手がタイムを取ったときに、前川がこっちを気にするように振り返っていたので、スクイズだなと思った」と、呼吸はぴったり。そんなノーサイン野球の迫力が、じわじわと伝統校の高松商をも追い詰めたのだ。
県内有数の進学校、富岡西がノーサイン野球に取り組むようになって約7年。「自ら考えて動けるようになる方が、作戦の成功率が上がる」という小川浩監督(58)の考えに、選手たちも理解を示す。1回戦で一回に二盗と三盗を決め、先制のホームを踏んだ山崎光希(3年)も「自分のタイミングでスタートを切れるから、ノーサインの方がいい」と納得する。
春夏通じて初めての甲子園となった選抜大会では、優勝した東邦(愛知)と1回戦で対戦。1―3で敗れたものの、自分たちの野球を貫いて善戦し、「思い切りよく動けるようになった」と、坂本は話す。手応えを深めた選抜の経験。それがまた、大舞台でも判断に迷わない度胸をチームに授けている。(高岡佐也子)