安倍晋三首相が政権に復帰して6年半。権力が放つ強い磁力に吸い付けられるように、首相官邸の意向が霞が関で忖度(そんたく)される構図が強まっている。それが社会に影響を及ぼし、さらに政権基盤を強める「磁界」を形成していく――。長期政権がもたらす政治、社会の変容について、夏の参院選を前に考える。
大阪府泉佐野市の阪上博則理事は、総務省の課長補佐の言葉に驚いた。
「いきなり不交付団体になりますよ」
昨年6月、東京・霞が関にある総務省の一室。ふるさと納税の返礼品を「寄付額の3割以下の地場産品」で縛る通知を守らないならば、市が受け取れるはずの交付税を削ることもできるという趣旨だった。「脅しだ」。阪上氏はそう受け取った。
ふるさと納税は、菅義偉官房長官が第1次安倍政権の総務相時代に提唱。今年5月1日の記者会見では、令和に取り組むべき政策を問われ、「ふるさと納税など頑張る地方を応援する政策を拡大したい」と自ら言及した肝いりの政策だ。
菅氏は拡充の旗を振り、総務省は寄付できる金額を増やし、手続きを簡素化させた。社会に浸透する一方で、返礼品競争が広がった。総務省は、泉佐野市が通知を無視するように、外国産のウニや大手メーカーのビールなどを返礼品にしたことを問題視していた。
「菅さんの顔を潰すわけにはいかない」。複数の省幹部が口をそろえるように、総務省は今年3月、「脅し」を実行に移した。
省令を変更し、通知に沿わない…