米ミネアポリスで15日に、あるスター選手の引退式典が行われた、ミネソタ・ツインズの看板選手として活躍したジョー・マウアー氏(36)だ。好打の捕手でア・リーグ首位打者を3度獲得。2009年にはMVPも受賞した。
「僕は外国人ですから…」 イチローが伝えたかったこと
米スポーツ専門局ESPNによると、今年マリナーズで引退したイチロー(本名・鈴木一朗)氏もビデオメッセージで登場。09年に首位打者を争った捕手に「打席に入るとき、信じられないほど優しく迎えてくれる捕手だった」と語り、場内を盛り上げたという。
イチロー氏が今年3月21日に引退してからちょうど3カ月が過ぎた。それでも、こんな形で大リーグのファンをいまだに沸かせている。所属した球団の本拠でもない。それどころか、イチロー氏にとってツインズは、通算打率が球団別で3位タイの3割3分3厘と、「お得意様」といえる球団だった。
熱狂的な地元ファンが多い大リーグで、各地で歓迎される選手はそう多くはない。イチロー氏も移籍当初のマリナーズ時代は、敵地でブーイングを浴びていた。
「歓迎ぶり」が大きく変わったと、取材をしていて感じたのは16年だ。6月、日米通算ではあるが4257安打に到達し、大リーグ歴代最多のピート・ローズ氏(主にレッズ)の4256本を抜いた地はサンディエゴで、8月に達成した大リーグ通算3千安打はデンバー。関係性が深いとは言えない都市でも、観客は立ち上がり、大歓声を送った。
今でも印象深いのは、同じ年の7月15日にセントルイスであったカージナルス戦だ。当時マーリンズにいたイチロー氏は、この試合で八回1死から代打で中前安打を放ち大リーグ3千安打まで、残り9本とした。
それが起きたのは、名前がコールされ、打席に入ろうとしたときだった。場内の観客が一気に立ち上がる。連動したかのように大リーグ屈指の捕手モリーナは、立ち上がって足で地面の土をならし始め、なかなか座らない。10秒ほどの出来事だが、イチロー氏をたたえる拍手はとても長く感じた。
投手に一息つかせる場面ではない。イチロー氏も「ビックリしたな。ちょっと感激しましたね」と語ったのを覚えている。翌日、試合前にモリーナに意図を確認しに行くと、「長年、大リーグや野球界に貢献してきたことへの敬意を示したんだ。彼は称賛されるに値する」と、明らかに狙った行為だったと認めた。
今年3月、東京ドームでの万雷の拍手を浴びたあと、引退を表明したイチロー氏。プロの舞台で打って走って守る姿はもう見られないが、今後もあらゆる地で人々を沸かすのだろう。(遠田寛生)