少子化や生徒のニーズの変化など、高校も時代に合わせて形を変える。その変化の途上の中で、野球を続ける部員たちがいる。
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高校に入学した昨春、川崎市立川崎高の上村優太君(2年)は、坂本結人君(2年)と出会った。上村くんにとっては、待ちに待った野球部の同級生だった。
2014年に付属中が開校した同校。普通科は高校から入学する生徒が1学級分と少なく、生活科学科と福祉科はほとんどが女子生徒だ。高校の野球部は09年の選抜大会21世紀枠に推薦された実力を持っていたが、付属中には野球部がない。同高の野球部は硬式、中学は一般的に軟式で、分かれて練習する必要があり、そのためのグラウンドが取れないからだ。
小学校で野球を始めた上村君は、付属中の2期生。中学に野球部がなかったため、学校外のクラブチームに所属し、一足早く硬式球に挑み、バウンドの違いや速さに慣れた一方、チーム費を両親からもらう度、申し訳なく思っていた。練習は土日しかなく、毎日1人で素振りや体幹トレーニングを重ねた。「高校からの入学者の中に、野球部に入る同級生がきっといるはず」という思いが支えになった。
そして、高校から入学した坂本君が野球部に入部してきた。野球経験のある付属中の同級生が、中学時代に他のスポーツに移ってしまった中、上村君にとって初めての野球部の同級生だった。
坂本君にとっても、上村君は大切な存在だ。「性格はミステリアスだけど、試合になったら心強い味方」。1年のときは付属中出身者と高校からの入学者が別のクラスになるため、上村君を通して付属中出身の友達も増えた。「ときには嫌なことがあっても、助けられたり助けたりしていきたい」
この夏は、麻生総合高との連合チームで出場する。自校の選手は4人。上村君は「野球をやるなら高3の夏までやってこそ、と思ってきた。応援して支えてくれた親に活躍する姿を見せるためにも、全力で試合に臨みたい」。
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2年前の夏、シード校を破って16強に進出した氷取沢高(横浜市)。「先輩たちはとても大きな存在に感じた。同時に、2年後には自分たちがこうして仕切っていくんだと『行き先』が見えた気がした」と藤本直希君(3年)。「氷取沢高の最後の夏」に主将として臨む。
同校は、20年度から磯子高と再編統合される。少子化の影響だ。校舎やグラウンドは氷取沢高を使うが、県教委によると、あくまで「新校」としての出発であり、同様のケースの過去の例では、新たな校名になった場合が多いという。
磯子高は、昨年から生徒の募集をやめ、今は3年生が残るのみ。募集停止が発表されてからは野球部も部員が減った。氷取沢高が勝ち進んだ2年前は磯子高も4回戦に進出したが、昨夏の大会後、3年生の引退と同時に、「最後の代」である2年生(現3年生)も引退の道を選んだ。
校舎が残る藤本君たちも、「最後」を意識する。昨秋の新チーム発足時、「最後の年だから中途半端にはやりたくない」と話し合った。下級生に比べて3年生が少ない中、指示が遅れて練習がうまく回らないことや、試合で「びびってしまって」悪い流れを断ち切れないこともあったが、「先輩たちが『氷取沢』の名前で活躍してきた中で、自分たちも結果を残したい」と藤本君。
胸に「HITORIZAWA」と記したユニホームは、創部以来変わっていない。OBの叔父も同じユニホームに袖を通したという伊藤豊君(3年)は、「期待に応えるべく、全員が一丸になる」と話す。(木下こゆる)