きれいに刈りそろえられた黄緑色の草が広がる、青森県五所川原市の金木高野球部のグラウンド。技能職員の川口哲(さとる)さん(58)は、2週間に1回の草刈りを欠かさない。34年にわたって金木野球部を見守ってきた「用務員さん」だ。
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金木野球部は、2人の部員と2人のマネジャーが所属し、ここ4年は連合チームとして大会に出ている小さな部だ。学校の生徒数は80人ほど。他校との統合がすでに決まり、金木に新入生が入学するのは来年が最後だ。
野球部員の今柊斗君(3年)と津田旭陽君(2年)は、平日には2人で打撃マシンに向かい、打ったボールをマネジャーと4人で拾ってまわる。「少ないとかえってマシンが使い放題でいい」と今君は明るい。
そんな2人に、事あるごとに声をかけるのが川口さん。試合の記事が新聞に載ると、「長打打ったのか」「どのくらい投げたんだ?」。自身も長年野球を続け、今も「50歳野球」などでプレーする川口さんは、普段は校舎の設備管理などが仕事だが、かつてはこの部で指導者も務めた。
金木に勤務しはじめた20代の頃、懸命に練習する高校生たちの姿に、「野球が好きなんだば、コーチをやろう」と引き受け、野球経験者の教員がいないときには監督にもなった。連合チームで大会に出るようになってからはコーチを離れたが、やっぱり部員たちが気にかかる。
「うちの部には声をかけてくれる人がいないので、うれしい」と今君。金木には今年、新入生が入部しなかった。来年は新入部員が入るのか、部がいつまで続くのか、わからない。
川口さんはここ数年、農作業の都合で夏の大会を見に行けない年が続いていた。でも今年は、「最後になるかもしれねから、見に行くよ」と決めている。
部には、川口さんを通して地元の野球経験者たちから寄付された1ダースのボールがある。選手が2人しかいない小さな部には、新品のボールは貴重品だ。
「夏の試合前、手を慣らすのに持っとけ」と川口さんが言うと、今君はボールをしっかり握りしめた。
2人が出場するチーム「西北・浪岡連合」では、今君は投手で、津田君が野手だ。最後の夏に、1勝したい。新聞を手にして喜ぶ、川口さんの笑顔が見たい。(吉備彩日)