北京大学神経科学研究所の万有氏と伊鳴氏のチームはゲノム編集技術を用い、実験ラットの脳内の特定の記憶を正確に「削除」した。論文著者の一人、北京大学神経科学研究所研究員の伊鳴氏によると、同研究は慢性痛や中毒などの「病理学的記憶」を特徴とする疾患の治療に新たな道筋を提供する見込みだと述べた。科技日報が伝えた。
関連の研究成果はこのほど、サイエンス誌の姉妹誌「Science Advances」に掲載された。
伊氏は取材に対し「記憶のコーディングと保存は重要だが、マイナスの記憶を忘れることも同じく重要だ。こうした記憶は生存に対して重要な意義を持つが、これがあまりに根強いものであると負担、さらには心的外傷後ストレス障害などの疾患になる可能性がある。また慢性痛、麻薬中毒、慢性ストレスなどの疾患は本質的に、患者の痛み、麻薬による感覚、ストレスによって生まれる取り除くことのできない、長期的に存在する病理学的記憶だ。その具体的なメカニズムについては完全に明らかにはなっておらず、効果的な治療法も不足している」と話した。
出来事の記憶は脳内の「刻印細胞」によってコーディング・保存される。記憶によって担当の刻印細胞が異なる。
伊氏によると、理論上、記憶を削除できれば病理学的記憶などの疾患の治療に新たなアプローチを提供できる。だが学習と記憶もまた非常に重要な機能であり、正常な学習・記憶能力に影響を及ぼさず特定の記憶を削除することは可能だろうか。
伝統的な薬理学またはゲノム編集技術は、広範囲かつ非特異的に神経細胞に影響を及ぼすことしかできず、特定機能または解剖的特徴を持つ神経細胞群を正確に操作することができない。
伊氏によると、この研究は2つの異なる実験箱内でラットの箱に対する恐ろしい記憶を誘発し、ゲノム編集技術と神経機能マーキング技術を結びつけ、特定マーキング細胞群に対するゲノム編集を通じラットの2つのうち1つの箱に対する記憶を正確に削除した。別の箱に対する記憶は完全に留めることができた。(編集YF)
「人民網日本語版」2020年3月23日