アドリアーノ選手(24歳)=ブラジル
子どもの誕生を、ゴールで祝う「ゆりかごダンス」が繰り広げられたのは後半4分のことだった。アドリアーノは輪の中心にいた。均衡を破る先制点の「主人公」として、そして、16日に誕生した長男の父として。「W杯初ゴールは信じられない気持ち」。しかし、ミュンヘンの6万6000人の観衆がしっかりとそのゴールを、祝福のダンスを見届けた。
189センチ、86キロの大型FWが放つシュートは時速130キロと言われ、恐れられている。だが、この日見せたのは、もう一つの顔。ロナウドからの横パスをフリーで受けると、軽くワントラップ、シュートコースを作り出して、きっちりと左足で流し込んだ。
「これまででもっとも難しい試合だった」。序盤から、オーストラリアはブラジルの中盤に厳しいチェックを浴びせ、巧みなパスワークを裂いていた。前回王者に求められたのは、相手の集中力が欠ける時を待つ忍耐力。それが、後半開始早々に訪れたのだ。
19歳だった01年、ブラジル・フラメンゴからイタリア1部セリエA・インテルへ移籍。02年フィオレンティナへレンタル移籍し15試合で6得点を挙げると、翌シーズンは、中田英とともにパルマでプレーし28試合で15ゴール。その活躍が認められ、再びインテルに呼び戻された。
豊富なタレントがそろうセレソン(ブラジル代表の愛称)にとどまることは容易ではない。だが、04年南米選手権、05年コンフェデレーションズ杯で得点王になり、代表での足場も築いた。
W杯初ゴールはまだ始まりにすぎない。頂点に立つため、ゴールネットを揺らすシュートをもっと放っていく。【辻中祐子】
毎日新聞 2006年6月19日 10時26分