青いカーテンの向こうに広がる部屋。その床の中央には赤い枠があります。死刑囚はこの場所で刑を執行されます。死刑が行われる施設「刑場」が、27日、初めて報道陣に公開されました。
東京・葛飾区にある東京拘置所。「刑場」はこの一角にあります。刑場は2層構造。上層部には死刑が執行される「執行室」など5部屋。そして吹き抜けとなった下層部には、遺体確認のための部屋の1部屋があります。27日、刑場を視察した能島一人記者は・・・。
「刑場全体には線香の香りが漂っていて、踏み板とその上には縄を通すリングと滑車があるだけ。 ただ刑を執行するためだけに作られた無機質な部屋という印象」(司法記者クラブキャップ・能島一人記者)
27日、初めて公開された死刑を執行する「刑場」。連行された死刑囚が最初に入るのはこの「教誨室(きょうかいしつ)」です。仏壇が据えられていて、死刑囚は遺言を書くことができ、教誨師による教誨を受けます。
そして、廊下に出て次に向かうのは「前室(ぜんしつ)」。“控えの間”です。ここにも正面に仏像が置かれています。死刑囚は、ここで拘置所長によって「死刑執行」が言い渡されます。
実際には死刑囚は目隠しをされ、手錠をはめられます。そして、隣の部屋に移るとそこは「執行室」。死刑囚が首にロープをまかれ、絶命する場所です。
2006年12月以降、この部屋で17人に死刑が執行されています。天井には滑車があり、実際には直径およそ3センチのロープがかけられます。床にある踏み板はおよそ1メートル四方。首にロープをかけられた死刑囚は、この踏み板がはずれ、下層部に落下することになります。
「執行室」の裏手には、踏み板を開くためのボタンが3つ並ぶ“ボタン室”があります。執行の際、3人の刑務官が一斉にボタンを押しますが、1つだけが踏み板を開ける装置とつながっていて、刑務官の心理的負担を軽減する仕組みになっています。
そして、死刑執行を見守るための「立会室」。検察官や拘置所長らがガラス越しに執行を見届ける場所で、先月、千葉法務大臣もここで死刑執行に立ち会いました。この場所からは、下層部の部屋も一望することができます。
この部屋では死刑囚の死亡が確認され、遺体が棺に納められますが、今回、この部屋の視察は許可されませんでした。今回、刑場公開に踏み切った千葉法務大臣は・・・。
「死刑制度についての国民的議論の1つの情報、材料になるのではないか」(千葉景子 法相)
裁判員裁判でも、一般市民が近く死刑判決の判断を迫られることが予想されています。刑場の映像を見た裁判員経験者は・・・。
「なぜずっと公開しなかったのかということにすごく疑問を感じる」(裁判員を経験した男性) 「ここまで情報公開ってなっていくのかと思うと怖い気もする。(私は)死刑の選択はできなくなってしまったかな」(裁判員を経験した女性)
一方、オウム真理教による地下鉄サリン事件で夫を失った高橋シズヱさんは、被害者の遺族も刑場を見られるようにしてほしいと訴えます。
「メディアだけというのではなく希望する被害者遺族にもきちんと公開する。最終的には立ち会いたいと思っている被害者遺族には立ち会いまで許してほしい」(高橋シズヱさん)
初めてとなる刑場の公開は限られた条件のもと、終始、緊張した空気のなかで進行しました。拘置所の事務棟から刑場へと向かうバスの中では、警備上、場所を特定されないためとの理由から、前後左右すべてがカーテンで遮蔽されました。
また、法務省からは「職員の心情に配慮して欲しい」といったことが繰り返し説明され、密室の中で死刑執行という極めて重い任務に向き合う刑務官の厳しい現実も垣間見えました。
「(刑場の公表は)わが国の死刑の執行に関する情報提供として画期的なこと」(死刑執行に立ち会った経験のある元最高検検事)
現在も死刑制度を存続させる数少ない先進国である日本。それは、「死刑はやむを得ない」と考える人が85%にのぼる高い世論に支えられたものでもありますが、一方で、我々は死刑の現実についてあまりにも限られた情報しか与えられていません。
今いる107人という確定死刑囚が、自らの罪をどのように顧みているのか。また、次に刑が執行されるとき、その人や順番や時期はどのように決められるのか。裁判員制度によって、国民自身も死刑という判決に向き合わなければならない今、考える材料として与えられるべき情報は、まだまだ足りないと言わざるを得ません。(27日17:53) |