【ジャカルタ=渡辺禎央】インドネシア当局は29日、オーストラリア人2人を含む7人の外国人を含む麻薬犯8人の死刑を執行した。恩赦を求めていた豪政府は駐インドネシア大使の召還を決め、強い遺憾の意を表明した。両国関係は一時的にせよ冷え込むのは避けられない見通し。ただ、ともに国内世論に押されて強気に出ざるを得ない事情もあり、関係改善の糸口探しに苦慮しそうだ。
「司法の主権は尊重されるべきだ」。ジョコ大統領は29日、同日未明の処刑について従来主張を繰り返した。対象の外国人は豪州やブラジル、ナイジェリアなどの出身の7人。ジョコ政権下の死刑執行は2度目で1月にもブラジル人ら5人の外国人麻薬犯を処刑した。
インドネシアの死刑の判決や執行は司法当局の役目だが、大統領は恩赦を与える権限を持つ。今回、豪政府のほか国連や欧州連合(EU)もジョコ氏に猶予を訴え続けたが、麻薬まん延を「非常事態」とみるジョコ氏は聞き入れなかった。
豪政府にとって大使召還は異例の措置だ。アボット首相は29日の記者会見で「(執行は)残酷で不必要だった」と強調した。豪州は1973年に死刑制度を廃止しており、首相は「10年も収監した上で処刑するのは二重の罰だ」と非難した。
両国が自らの主張を譲らなかった背景には、国内世論への配慮で安易に譲歩しづらいという共通の事情が透けて見える。
ジョコ氏の支持率は足元ではやや陰りがみえる。与党関係者がからむ汚職疑惑や物価上昇などが原因だ。有力紙コンパスの世論調査でジョコ氏の印象を「よい」とした回答は1月の81%から4月は61%に低下した。一方、調査機関インド・バロメーターによる3月の世論調査では、85%が麻薬犯の死刑を支持。死刑囚への恩赦は国民の“期待”に背くことになる。
アボット氏も緊縮財政への国民の反発や、2月に与党で浮上した首相辞任動議などで立場は揺らぎ気味。大使召還といった強硬姿勢を見せておかないと国民の反発をかわせない状況にあった。