【カイロ＝押野真也】過激派組織「イスラム国」（ＩＳ）がシリアとイラクで攻勢を強めている。20日夜（日本時間21日未明）には世界遺産の遺跡で知られるシリア中部の都市パルミラを制圧した。米国や有志連合がＩＳの掃討作戦を続けているが、ＩＳの主要な対抗勢力であるイラクとシリアの国軍は十分に機能しておらず、ＩＳの掃討は難航している。

過激派組織「イスラム国」が制圧したシリア中部パルミラにある古代遺跡（17日）＝国営シリア・アラブ通信提供・ＡＰ

パルミラはシリア西部にある首都のダマスカスと東部のイラク国境との中間点に位置する要衝。ＩＳが同地を制圧したことで、イラクからシリア中部までＩＳ戦闘員が移動でき、政府軍によるダマスカスの防衛にも影響を与えそうだ。

パルミラは２～３世紀に交易で栄え、古代ローマ時代の神殿跡など、貴重な遺跡が残る。1980年には国連教育科学文化機関（ユネスコ）が世界文化遺産に認定した。ＩＳは支配地域であるイラク北部モスルの南西にあるハトラ遺跡をすでに破壊しており、パルミラの遺跡も破壊される可能性がある。

ユネスコのボコバ事務局長は20日、「中東で最も重要な遺跡の一つが危機にさらされている」と述べ、即時停戦を求める声明を発表した。しかし、シリアだけでなく、イラクでもＩＳの攻勢は続いており、停戦への道筋は見えていない。

米国は有志国とともにイラクとシリアでＩＳの掃討作戦を展開している。空爆作戦が中心だが、15日にはシリア東部で米特殊部隊がＩＳの拠点を急襲し、幹部を殺害した。

戦力の中心となるイラク軍の戦闘訓練が遅れており、大規模な地上作戦は先送りされているようだ。ＩＳと対立するシリア国軍はＩＳ以外の反体制武装組織とも交戦しており、戦線が拡大している。シリア国軍は首都ダマスカスの防衛に注力しており、ＩＳはこうした隙をついて支配地域を拡大している。

イラクのアバディ首相はＩＳに制圧されたイラク中西部ラマディを奪還するため、イランの影響下にあるイスラム教シーア派の民兵組織を投入する方針だ。ただ、ラマディを州都とするアンバル州はイスラム教スンニ派の住民が多い。シーア派の民兵組織が進撃すればスンニ派住民の反発が強まり、宗派対立が激化する可能性もある。