日銀が1年10カ月ぶりに景気判断を前進させたのはもたつき気味だった個人消費に底入れの兆しが出てきたためだ。「企業収益回復→賃上げ→消費増」の流れが実現しつつあるとみている。黒田東彦総裁は22日の記者会見で市場を意識して今後の物価上昇に強気な姿勢を示し「現時点で追加緩和は必要ない」と明言した。
記者会見する日銀の黒田総裁(22日、日銀本店)
景気判断の上方修正を後押ししたのは個人消費の回復だ。消費者心理を示す指標の改善が続いている上、最近はスーパーなど小売りの売上高も回復している。日銀は昨年4月の消費増税後の消費回復の鈍さに気をもんできたが「ようやく解消されてきた」(幹部)との安堵の声も聞こえる。
消費を支える条件も好転している。増税の影響が薄まるなかで、雇用・賃金の回復が強まっている。特に基本給を一律に底上げするベースアップ(ベア)の影響が6月以降に表れてくると日銀は見ており、黒田総裁は「消費はさらに伸びを高めていく」と見込む。
日銀は消費の回復を待ち望んでいた。政策の波及経路として「所得から支出への好循環」も訴え続けてきた。消費が持ち直せば、好循環が働き物価上昇の展望が開ける。黒田総裁は「考えた線に沿って、経済・物価が動いている」と自らのシナリオに自信を示し、物価も「今後着実に改善していく」と説明した。
ただ日銀は昨年、消費増税後の消費の回復を見誤り、結果的に追加緩和に追い込まれた。デフレ心理が染みつき、将来不安も抱える家計の財布のひもは日銀の想定を超えて固い公算も大きい。足元の消費も「増税前に回復したとは言い切れない」(幹部)状況だ。
ギリシャ情勢や米国と中国の景気には不透明感も残る。黒田総裁は「経済・物価情勢を点検し、必要な(政策)調整をやっていく」と今後の動向次第で追加緩和に踏み切る可能性も示唆し、市場の期待をつなぎ留めた。