理化学研究所脳科学総合研究センターの利根川進センター長らは、いったんは忘れてしまった過去の記憶を脳の神経細胞を刺激する方法でよみがえらせる実験にマウスで成功した。脳の神経ネットワークを太くして記憶を保つとした従来の考え方では説明が難しく、神経細胞のいくつかが記憶の保管庫になっている可能性があるという。
成果は米科学誌サイエンス(電子版)に29日、掲載される。
研究チームは遺伝子を組み換えたマウスを使い、学習や記憶に関わる脳の海馬に特殊な装置で光を当てると怖い体験を思い出すようにした。
記憶のしくみを巡っては、脳の神経細胞同士のつながりが重要と考えられてきた。ところが特殊な薬剤で神経細胞のやり取りを弱めても、マウスは脳に光で刺激を受けると怖い体験の記憶がよみがえってすくんだ。研究チームは「神経細胞のいくつかが記憶の保管庫になっている」と結論づけた。
利根川センター長は「早期の認知症では記憶そのものはまだ失っておらず、再生のしくみを元に戻せば記憶を取り戻せるかもしれない」と話している。