データ入力ミスなどで年金の過少支給が相次いだ問題を受け、日本年金機構が設置した第三者調査委員会(委員長・一橋大学大学院の安田隆二特任教授)が4日、報告書をまとめた。委託業者の数々の違反に加え、機構の担当部署が納期を優先して委託停止や点検を行わなかったことが問題を深刻化させたと指摘。価格より能力重視で契約先を選ぶルールや立ち入り検査の強化などを提言した。
年金機構、納品データを一度も点検せず 過少支給問題
4月に設置された調査委は4回の会議や、機構で担当部署の給付業務調整室、委託業者「SAY(セイ)企画」(東京都豊島区)への聞き取りなどを通じて経緯を検証。この日の社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)の部会で、41ページにわたる報告書を参考資料とともに提出した。
報告書はSAY企画について、約800人の作業体制を予定しながら約130人しか確保できず、契約違反の入力方法でミスを多発するなど「履行能力に乏しかった」と断じた。
一方、機構側でも、中国企業への再委託が発覚する今年1月まで「問題の全体像の把握や(機構全体での)危機感の共有が図られなかった」と指摘。作業が始まった昨年10月以降、担当部署は問題を把握しながら納期を優先し、是正を促すなど現場レベルの対応に終始したことを批判した。
ただ、再委託の発覚後の対応は「即座に特別監査を実施した」などと評価。個人情報の流出はないとの結論についても「監査法人の調査結果も第三者機関に入念的に評価させた」とし、問題がないとした。
今回の業務委託は「履行能力の低い業者と契約した手続きに問題があった」と認定。こうした問題点を踏まえて、個人情報を扱う業務には、価格だけでなく事業規模やセキュリティー体制などを総合判断する入札方法の原則化や、入札に参加できる資格の厳格化などの変更が必要だとした。また契約違反を防ぐため、機構が用意した場所で作業させる契約や、作業開始前や途中の立ち入り検査の強化といった対応を求めた。
機構は2010年の設立以降、コスト削減などを目的に外部委託の活用を推進してきた。こうした方針について「基本的な方向は適切だ」としつつ、「業務の正確性とサービスの質の向上を重視するよう転換する必要がある」と提言。委託業者を正しく監督するため、業務分野に応じた専門的な知識を持つ人材の確保や育成も促した。
機構は今後、提言内容を踏まえた内規の改定や業務体制の確保のためプロジェクトチームを設置する。(佐藤啓介)
日本年金機構の第三者調査委員会の報告書要旨
【問題の主な原因】
●最低価格競争の落札方式で、作業能力が低い業者に委託
●担当部署の給付業務調整室が問題を機構全体に共有せず、委託停止や点検実施などの対応をせず
【対応策】
●個人情報を扱う業務は、価格競争ではなく事業規模やセキュリティー体制などを重視する落札方式を原則化
●違反防止のため、機構が用意した場所で作業する契約を推進
●機構による作業前、途中の立ち入り検査の強化
●IT化やシステム化を進め、入力業務自体を減らす