93歳の女性は小学校の体育館に避難。体操マットを重ねてベッド代わりにしている=19日午後、熊本市東区、山田理恵撮影
熊本県を中心とする地震で、多くの高齢者が避難所での暮らしを余儀なくされている。余震も続き、心身ともに疲労が重なる。健康を維持するためには、どんな点に注意すべきなのか。
特集:熊本地震 ライフライン情報など
特集:あなたの街の揺れやすさを住所でチェック
熊本地震 災害時の生活情報
19日、熊本市東区の小学校体育館。要介護5の女性(93)が、重ねた体操用マットの上で横になっていた。16日未明の本震後、自宅は停電。介護ベッドも動かなくなり、水も出なくなった。その日の朝、おむつと1週間分の薬を持ち、同居する長女(69)と2人で避難してきた。
長女によると、避難生活で周囲に気兼ねするのはおむつの交換だ。尿だけの場合、シーツで女性を囲って交換するが、大便の場合、臭いで周囲に迷惑をかけたくないと、保健室に移動して、取りかえているという。余震が続く中、女性は緊張からか、腕がこわばり、笑顔が消えた。
阪神大震災(1995年)で高齢者の支援にあたった社会福祉法人きらくえん(神戸市)の市川禮子理事長は、まず水分摂取とトイレの重要性をあげる。「体育館などでは、お年寄りが大勢の人の間をぬって外のトイレにいくのは大変なこと。水分をとるようすすめても、トイレが近くなって迷惑をかけるからと、飲まない方が多かった」
水分が不足すれば脱水症などのリスクが高まる。簡易トイレなどを数多く設置し、できるだけ早く近隣の高齢者施設などにお年寄りを移すべきだと市川さんは訴える。
食事をとる際にも注意が必要だ。かむ力、飲み込む力が弱いお年寄りは、のどに食べ物を詰まらせやすい。新潟大大学院の井上誠教授(嚥下〈えんげ〉障害学)は、「飲み込みがうまくいかないと肺炎になることもある」と指摘。食事が進まない▽しばしばむせる▽声がガラガラしている――といった場合、うまく飲み込めていないことが原因の可能性があり、注意が必要だ。
高齢者支援を研究してきた佛教大学の松岡千代教授(老年看護学)は、「お年寄りは体がつらくなっても『迷惑をかけたくない』と我慢しがち。ご飯を食べる量など、周囲の人が体調の変化をキャッチしてほしい」と話す。
避難所でじっと座り込んだままの高齢者も多いが、「体を動かせる人は、どんどん動かした方がいい」と話すのは、神戸市のボランティア団体「被災地NGO恊動センター」顧問の村井雅清さん。
被災地入りしたメンバーは、熊本県益城町の避難場所に鍋とカセットコンロを提供。お年寄りが自ら調理できるようにしたという。村井さんは「できるだけ普段通りに体を動かすと精神的にも楽になる」と話す。適度に体を動かすことは、肺塞栓(そくせん)症(エコノミークラス症候群)への対策にもなる。
新潟県中越地震(2004年)で、避難してきた要介護高齢者を特別養護老人ホームで受け入れた高齢者複合施設サクラーレ福住(同県長岡市)の施設長・冨田幸二さんは、「冷えた床に座ったままだと体がこわばり、活動性が低下していく」と注意を促す。支援物資の空き箱を活用するなどし、多少高さのあるものに腰掛けるようにすると良い、とアドバイスする。(山田理恵、井上充昌)
■避難生活、高齢者の注意点は?
・水分をこまめにとる
・火が使える場合、配給のおにぎりをおかゆにすると良い
・コーンスープなどとろみのついた飲み物、ゼリードリンクもおすすめ
・トイレをがまんしない
・動ける人は積極的に動く
・少しでも体調がよくないと感じたら、すぐに声をあげる