熊本地震の募金活動をするヤクルトの松岡(右)=松山市の坊っちゃんスタジアム
■スコアの余白
プロ12年目の右腕にとって特別な勝ち星になっただろう。ヤクルトの松岡が今季初勝利を挙げた17日は、出身の熊本県を最大震度7の揺れが襲った3日後。九州東海大(現・東海大阿蘇、熊本両キャンパス)時代に過ごした同県南阿蘇村で甚大な被害が起きた直後だったからだ。
スコアの余白2016
熊本県玉名市の実家に大きな被害はなかったが、テレビ画面に映る南阿蘇村の見慣れた光景は一変していた。「毎日通っていた阿蘇大橋が崩れ、どこなのかと思った」。合宿所に近いアパートは倒壊し、学生たちが犠牲になった。大学の同級生がコーチを務める野球部も「ビニールハウスとかで避難生活を続けている」と聞き、「言葉にできないぐらい苦しい気持ちでした」。沈痛な表情で母校の窮状を説明してくれた。
「プロ野球選手としてやれることはないか」。四国・松山での遠征中、募る思いを行動に移した。「募金をお願いします」。17日のDeNAとの試合前、普段は黙々と中継ぎで仕事をこなす33歳のリリーバーが先頭に立って声を張り、球場を訪れた観客に募金を呼びかける姿は印象的だった。「熊本出身ということで声をかけてくれる人もいて、感動した」。その日の九回に救援し、1失点。サヨナラ勝ちにも「良いところを見せたかった。力の無さ」と、喜びより投球内容の反省が口をついた。
先輩に続けとばかりに、20日には大学の後輩、山中も甲子園の阪神戦で今季初先発初勝利。救援陣を支える松岡も「自分にプレッシャーをかけながら成績を残したい」。故郷に多くの吉報を届けるような燕の九州男児の活躍に期待したい。(甲斐弘史)