獄卒(悪鬼)が描かれている「地獄草紙」。ろうそく型のライトで見ると迫力がある=鬼室黎撮影
一般には見られない国宝級の日本美術をデジタル復元で色鮮やかによみがえらせ、本来の色や形を体感するワークショップが人気だ。精細なレプリカを使い、楽しみながら日本独自の美意識を学ぶ「賞道」と題して、デジタル復元師の小林泰三さん(49)が開いている。
小林さんは、大学で学芸員の資格を取得。就職した印刷会社で最新のデジタル処理の技術を身につけ、「失われた色世界を再現するおもしろさ」に気付いたという。写真や研究などを元に、実物に残った顔料が酸化したり、退色したりする前の色を推測し、再現していく。これまでに高松塚古墳の壁画や平安時代の絵巻物「地獄草紙」などをデジタル復元してきた。モニターで描写をなぞると、息を止めたり、力を込めたりした作者の筆遣いも精密に分かるという。
「わびさび」や平面性などが強調されがちな日本美術だが、絵巻物や、ふすま絵など日本美術の多くは本来、動かしながら楽しむものだったという。たとえば、江戸時代に描かれた「花下遊楽図屛風(びょうぶ)」は全体の右側が手前に見えるような遠近感があったり、「地獄草紙」は揺らめくろうそくの下で見ると、顔料で描かれた獄卒(悪鬼)の目が光ったりするという。