乗用車が暴走し、歩行者に重軽傷を負わせた現場=3日午前11時59分、神戸市中央区、朝日新聞社ヘリから、豊間根功智撮影
繁華街で突然、悲鳴が響き渡った。神戸・三宮で3日に発生した暴走事故。乗用車はスピードがほとんど落ちないまま歩道に突っ込み、歩行者らを次々とはねた。大型連休後半の初日でにぎわう街は騒然とし、買い物客や観光客は救助活動を見守った。
■連休の繁華街に悲鳴
午前11時7分。多くの人が行き交うJR三ノ宮駅北側のロータリーで異変が起きた。その一部始終をタクシーの車載カメラ(ドライブレコーダー)がとらえていた。
駅の前を周回するロータリーは一方通行。右へ緩やかに曲がらなければならない所に、白い乗用車がさしかかった。速度はほとんど落ちない。その直後、鈍い異音がした。
「ガタン、ガタン」
歩道に乗り上げた乗用車は通行人らに突っ込んでいく。うしろからはねられて宙に浮く人、なぎ倒されるように前方に倒れ込む人……。悲鳴が上がり、「ファーン」という車のクラクションが周囲に鳴り響いた。
現場は三宮のメインストリートの通称「フラワーロード」のそばで、近くには百貨店やホテル、飲食店などが立ち並ぶ。車は歩道に乗り上げたあと、この道の交差点を突っ切り、反対側の歩道に置かれているモニュメントに衝突して止まった。「一瞬の出来事。何が起こったのか分からなかった」。近くにいた別のタクシー運転手(73)は振り返り、こう語った。「気がつくと、人がはね飛ばされていた」
大型連休後半の初日に起きた事故。友人と買い物に来ていた20代の会社員男性は「ドン」という大きな音がしたほうを見ると、女性2人が車のボンネット上にはね上げられ、振り落とされたという。
近くのバス停で乗客の誘導をしていたバス運営会社の男性(62)は、交差点の近くで倒れていた女性2人を見た。「お母さん、お母さん」。2人のうち若いほうの女性が、もう一人の女性に声をかけていた。男性は「連休中で人出も多く、多くの人が命を落とす事態になったかもしれない。改めて車の怖さを感じた」と声を震わせた。
事故直後には30台を超える救急車やパトカーが集まり、周辺は騒然とした。救急隊員は路上に横たわる負傷者を担架にのせ、声をかけながら病院へ。事故を知った人たちや車が現場に近づかないように、警察官は交通整理に追われていた。
■事故直後の容疑者は…
ロータリーの反対側にある歩道のモニュメントの台座に衝突して止まった乗用車。大破した前部は事故の衝撃の大きさを物語っていた。
現場近くにいた会社員の男性(24)は乗用車に近づき、運転席にいた無職沢井国一容疑者(63)=神戸市中央区港島中町6丁目、自動車運転死傷処罰法違反の疑いで現行犯逮捕=に声をかけたという。男性は取材に「うまくしゃべれない様子で、一点を見つめてぼうぜんとしているような感じだった」と語った。助手席では息子とみられる男性が「痛い」と声をあげていたという。
沢井容疑者の自宅マンションの住民によると、同容疑者は息子と2人暮らし。一緒に外出する姿がよく見かけられていた。住民の女性は「以前に交通事故に遭い、頭にけがをしたと聞いていた。杖をついていて、歩くのに苦労していたようだった」と話していた。